バイオ・化学部 応用化学科

渡辺雄二郎 研究室

WATANABE YUUJIROU
LABORATORY

飛散した放射性物質を回収する新規無機複合体を開発

福島第一原子力発電所の事故に伴い、飛散した放射性物質による大気や水、土壌などの汚染が、周辺の生活環境に甚大な影響を与えている。研究室では飛散した放射性物質を効率よく分離回収でき、長期間にわたって安定に貯蔵できる材料として、ゼオライトを用いた無機複合体の開発に取り組んでいる。(図 ゼオライト/アパタイト複合体の走査型電子顕微鏡写真)

キーワード

  • 環境浄化材料
  • 放射性物質固定化材料
  • 複合材料
  • 無機材料
  • ゼオライト

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研究紹介

RESEARCH

ゼオライト/アパタイト複合体による放射性セシウムの回収・長期安定化技術の開発

研究内容

福島第一原子力発電所の事故に伴い飛散した長い半減期を持つ主な核種は、放射性セシウム(Cs-137半減期30年, Cs-134 半減期 約2年)であり、今後は汚染水中の放射性セシウムに対して高い分離能を持つ回収材の開発だけでなく、回収後の材料の安定化も考慮した材料・技術開発が必要となる。本研究ではこれまでに蓄積してきた無機ナノ複合体(ゼオライト/アパタイト複合体)を用いた一連の放射性ヨウ素回収・長期安定化システムに関する基盤技術を、放射性セシウムに適した材料システムとして応用し、福島第一原子力発電所及びその周辺の汚染水からの放射性セシウムの回収・長期安定化技術を構築する。(図 研究概略図)
-これまでの成果-
 本研究は蓄積してきた一連のヨウ素固定化システムに関する研究成果を、水溶液中で陽イオン態で存在するセシウム(Cs)の固定化へ応用するため、プロセスの最適化を図り、福島第一原子力発電所及びその周辺における放射性Csの回収・長期安定化技術としての実用化に結び付けることが最大の目的である。具体的には、(1)一連のCs回収・長期安定化技術の構築に向けた試行研究、(2)選択性の高いCs回収材であるゼオライト(モルデナイト)表面への水酸アパタイト形成とそのCs回収能の評価に関する研究、(3)すでに使用されたゼオライトを想定したCs吸着ゼオライトの水酸アパタイト形成研究、(4)アパタイトマトリックス材との焼成によるCs固化体の作製研究を行う。
 平成26年度は、過去の研究成果から見出された一定の条件で、一連のCs回収・長期安定化技術の試行研究を行った。具体的な研究成果を以下に示す。
1.イオン交換法によりCa型の合成モルデナイトを作製し、得られたCa型合成モルデナイト表面への水酸アパタイト形成を反応溶液1 Mリン酸アンモニウム水溶液を用いて反応温度80℃、反応時間8時間で行った。その結果、合成モルデナイト柱状結晶の表面に約50 nmの水酸アパタイトリン片状結晶が多孔質かつ均一に形成されていることが明らかになった。この結果はヨウ素吸着ゼオライトA表面への水酸アパタイト形成の結果とも良く一致している。
2.純水及び0.6 M NaCl中における水酸アパタイト-モルデナイト複合体のCs最大吸着量は、モルデナイト単体と比較して減少するものの高い値を保持していた(純水中:0.99 mmol/g, NaCl中: 0.89 mmol/g)。
3.0.6M NaCl中における1000℃で焼成後の複合体は、モルデナイトの一部が非晶質化したため、Cs溶出率が焼成前と比較して大幅に減少した(2.5%以下)。
4.アパタイトマトリックス材(水酸アパタイト)とのパルス通電加圧焼結法での複合焼結(圧力:50MPa, 焼結温度:950℃, 複合体量15 wt%)では、割れのない緻密な焼結体が得られ、モルデナイト表面を水酸アパタイトが覆っている様子が観察された。また常圧焼結法((50 MPaで一軸成型、反応温度:1200℃、有機バインダー5 %含有 複合体量20 wt%))においてもパルス通電加圧焼結と比較して焼結体の密度は低いものの、割れのない緻密な焼結体が得られることが明らかになった。
5.得られた複合焼結体の0.6 MNaCl中におけるCs溶出試験では、焼成体と比較して、いずれの複合焼結体も大幅に溶出率が減少し、特にパルス通電加圧焼結した複合焼結体の溶液安定性が高いことが明らかになった(0.3 %以下)。
 以上の一連のCs回収・長期安定化技術の試行研究の結果から、本技術がCsの長期固定化にも有用であることが明らかになった。今後はそれぞれのプロセスの最適化を行う。
-参考論文-
1) Y. Watanabe, T. Ikoma, H. Yamada et al. ”Novel long-term immobilization method for radioactive iodine-129 using zeolite/apatite composite sintered body” ACS Appl. Mater. Inter. 1[7] 1579-1584 (2009).
2) 渡辺雄二郎 “ゼオライト-アパタイト複合緻密体による放射性ヨウ素129の長期固定化”  J. Soc. Inorg. Mater. Japan, 18, 152-160 (2011).
3) 渡辺雄二郎 “カチオン種の異なる各種ゼオライトによるセシウムイオンの回収と固定化” 日本イオン交換学会誌, 24[3], 75-81 (2013).
-謝辞-
本研究はJSPS科研費2682030800の助成を受けて実施しているものである。

ゼオライト複合体による先進的ほうれん草育成培地の開発

研究内容

福島に点在する多くの小規模なほうれん草農地は生産性が極めて悪い。また多額な初期投資が必要な植物工場への移行も難しい。小規模農地でコスト削減し、生産性の高い安全で安心なほうれん草を生産するには地産材料で作製した高機能性培地による作業の効率化と運搬費の削減及びほうれん草に的を絞った新しい栽培システムと販売戦略の構築が重要である。本研究では水を供給するのみで植物に必須な窒素・リン・カリの徐放が可能なゼオライト/アパタイト複合体を被災地のゼオライトを用いて量産し、ほうれん草専用の複合体培地を現地で開発する。また周年栽培可能な栽培育成システムを現地検証し、普及しやすい簡便なほうれん草育成培地として被災地へ提供する。
-主な研究成果-
図には肥料成分を含有したゼオライト複合体の合成メカニズム、ゼオライト複合体のSEM像、水との接触によるゼオライト複合体からの肥料成分の徐放、ゼオライト複合体培地で生育したほうれん草を示した。合成された複合体は水との接触により肥料成分を持続的に放出(徐放)していることが明らかになった(ゼオライト中からN、Kが、アパタイトからPが溶出)。またこの複合体を用いた培地によりほうれん草を生育可能なことが明らかになった。本技術は安価に導入リスクの少ない、環境にやさしい、効率性を徹底的に追求した「小規模分散型栽培システム」として利用が期待できる。
-参考文献-
1) Y. Watanabe, H. Yamada, T. Ikoma et al.“Preparation of a zeolite NaP1 / hydroxyapatite nanocomposite and study of its behavior as inorganic fertilizer” J. Chem. Tech. Biotech. 89 963-968 (2014).
2) "土壌改良材のゼオライトを活用して機能性材料を開発する" 農耕と園芸 54-57 (2015) 11月号
-謝辞- 本研究は平成25年度 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムA-STEP産学共同推進ステージ ハイリスク挑戦タイプ(復興促進型)を受けて実施されたものである。(継続して研究を推進中)

有機/無機ナノ複合体の創製における層剥離・複合化機構の解明および積層構造の構築

研究内容

カチオン性である水酸化物ナノシートと有機物のナノ複合化による有機/無機ナノ複合体は、環境材料、電子材料、薬物輸送システム材料などの幅広い応用が期待されている。この複合体創製における層剥離および複合化機構を簡易な手法で解明でき、さらに相変化反応により積層構造を構築できれば、ナノ層間を精密に制御した新たな構造材料の革新的な開発に繋がる。本提案では新規手法である直接観察法を用いた多種有機物と層状複水酸化物からなる有機/無機ナノ複合体の創製における層状複水酸化物の層剥離・複合化機構の解明および積層構造の構築に挑戦する。
-研究成果-
 本研究により、大気圧走査型電子顕微鏡(ASEM)を用いてLDHの膨潤・剥離挙動を水溶液中で直接観察することにはじめて成功した。またLDH/炭酸カルシウム複合体およびLDH/水酸アパタイト複合体を合成でき、有機/無機ナノ複合体の創製や積層構造の構築に向けた基礎データを収集することができた。本方法は層状化合物の膨潤・剥離・複合化挙動の直接観察のための重要な技術であり、ナノ層間を精密に制御した新しい構造材料の開発促進に繋がる。(図 水及びラウリン酸ナトリウム水溶液に接触させた塩素型Mg-Al系LDHのASEM像)
-参考文献-
1)渡辺雄二郎、西山英利、須賀三男 “大気圧走査電子顕微鏡(ASEM)を用いた水溶液中における各種層状複水酸化物の膨潤・剥離挙動の直接観察” 顕微鏡 49(1), 18-21 (2014).
-謝辞-
本研究は平成23年度 文部科学省 科学研究補助金 挑戦的萌芽研究(課題番号:236564130)を受けて実施されたものである。

無機複合体を用いた地下水中の塩分除去・肥料成分徐放材料の開発

研究内容

東日本大震災の津波の影響により、海水由来の塩分が地下水を汚染した。そのため、農業に深刻なダメージを与えている。本研究では、ゼオライトを核として開発した無機複合体を改良し、ナトリウムイオンおよび塩化物イオンを除去するとともに、作物育成に必要な肥料成分を適宜徐放する「塩分除去・肥料成分徐放装置」を震災地域企業と連携して開発する。具体的には無機複合体の改良のため、ナトリウムイオン選択性の高いゼオライト種等を選定し、改良した無機複合体の塩分除去性能と肥料成分徐放性能を、塩分濃度の高い地下水を想定した模擬農業用水を用いて評価する。
-研究成果-
 東日本大震災の津波の影響に伴い、海水で汚染された地下水中の塩分濃度の減少を目的に、最適化されたゼオライト/アパタイト複合体及びゼオライト/層状複水酸化物複合体によるNa+とCl-の除去性能の評価を行った。また作物育成に必要な肥料成分の徐放性能についても検討した。その結果、最適化された無機複合体を用いることにより、目標値であるNa+及びCl-除去率90 %以上(塩分濃度0.03 %以下)を達成可能なことが明らかになった。また肥料成分を10 wt%以上含有した複合体の作製に成功し、その徐放効果と植物生育促進効果が確認された。今後は被災地企業との連携による本複合体の量産化装置やカラム装置の開発及び更なる利用用途の拡大を目指す。
-参考文献-
1)Y. Watanabe, H. Yamada, T. Ikoma et al.“Preparation of a zeolite NaP1 / hydroxyapatite nanocomposite and study of its behavior as inorganic fertilizer” J. Chem. Tech. Biotech. 89 963-968 (2014).
2)渡辺雄二郎, ”ゼオライト複合体の作製と環境浄化材料としての評価” 粘土科学, 50, 1-8(2012).
3)辻野壮男, 大嶋俊一, 藤永薫, 山田裕久, 小松優, 渡辺雄二郎 ”天然ゼオライト/アパタイト複合体によるナトリウムイオンの除去と無機肥料としての評価”第25回日本イオン交換学会要旨集(2013).
-謝辞-
本研究は平成25年度JST 復興促進プログラム(A-STEP) の一環として行われたものである。

無機複合緻密体による放射性ヨウ素固定化システムの開発

研究内容

本研究では、これまでの無機複合体(ゼオライト/アパタイト複合体)を用いた一連の放射性ヨウ素129固定化システムに関する検討項目を基として各プロセスの最適化を行い、現在提案されているガラス固化に替わる次世代の安全・安心な放射性ヨウ素固定化システムの構築を目指す。
-主な研究成果(図の説明)-
 図1はパルス通電加圧焼結法(PECS法)により950℃と1000℃で作製したゼオライトA(ZA)-アパタイト複合焼結体および,比較として常圧焼結法により1200℃で作製した複合焼結体の写真である(ZAとアパタイトの混合重量比は3:17(水酸アパタイト被覆ヨウ素含有ゼオライトA:アパタイトマトリックス)).いずれの複合焼結体も,境界面での割れが見られなかった.この結果は,ZA表面上に被覆された水酸アパタイト(HA)により,アパタイトマトリックスとの親和性が向上したことに起因する.常圧焼結法を用いて1200℃焼成により作製したZA-アパタイト複合焼結体は白色を示し,ヨウ素が複合焼結体中から完全に放出していることがわかった(図1c).PECS法(圧力:50MPa,雰囲気:真空,昇温速度:50℃/分,保持時間:10分)により1000℃で作製した複合焼結体は,ヨウ素の存在を示す茶褐色が焼結体全体に見られ,アパタイトマトリックス領域までヨウ素が拡散していることがわかった(図1(b)).このときの複合焼結体中のヨウ素の保持率は67%であった.それに対して,粉末においてヨウ素の放出が起こらなかった焼成温度(973℃)以下の950℃でPECS法により作製した複合焼結体は,部分的に茶褐色を示した(図1(a)).このときのヨウ素保持率は99%以上であり,大部分のヨウ素を複合焼結体中に保持していることが明らかになった.
 図2はPECS法により950℃で作製した焼結体内部のZA相-HA相-水酸フッ素アパタイト(HFA)相の境界領域のSTEM像と各相のEDX分析結果である.HFA相中の粒子径は100 nm程度であり,常圧焼結法で作製した焼結体と比較して粒成長を大幅に抑制していることがわかった.また空孔がなく良く緻密化していることも明確に観察された(図2(I)).EDX分析結果は,HFAの構成元素であるCa, P, F, Oのピークを示し,ZAの主成分であるSiやAlのピークを示さなかった.またヨウ素のピークを示さなかったことから,HFA相中にはゼオライト成分およびヨウ素の拡散が起こっていないことがわかった(図2(IIa)).ZAとHFA相の境界面では,HAナノ相がはっきりと観察された(図2(I)).EDX分析結果ではHAを構成する元素(Ca, P, O)の他に,HFA中に含まれるFとZAの主成分であるSiやAlの存在を示し,HFAとゼオライトの構成成分の拡散が示唆された(図2(IIb)).これらの結果はゼオライトA表面へのHA被覆効果により,ゼオライト相とHFA相の境界領域において常にHA相が存在していることを示し,HA相がゼオライトAとHFAの親和性を向上させる重要な役割を果たしていることが明らかになった.またヨウ素のピークを示さないことからHA相中にはヨウ素の拡散が起こっていないことがわかった.ZA (非晶質)相中では粒子のコントラストが明確に観察された(図2(I)).EDX分析結果はZAの領域ではZAの主成分であるSiやAlの存在と,HFA相とHA相には見られなかったヨウ素の存在を示した(図2(IIc)).さらに黒色部を点分析した結果,ヨウ素のより高いピークを示した(図2(IId)).
 このようにHAで被覆したZAとHFAを混合し,PECS法により950℃で焼結することにより,ヨウ素をZA相(非晶質相)中のみに安定に保持した複合焼結体を作製することができる. (参考文献2から引用)
-参考文献-
1) Y. Watanabe et al. ”Novel long-term immobilization method for radioactive iodine-129 using zeolite/apatite composite sintered body” ACS Appl. Mater. Inter. 1[7] 1579-1584 (2009).
2) 渡辺雄二郎 “ゼオライト-アパタイト複合緻密体による放射性ヨウ素129の長期固定化”J. Soc. Inorg. Mater. Japan, 18, 152-160 (2011).
-謝辞-
本研究は文部科学省の平成16-20年度 原子力試験研究委託費(13073-2125-14), 平成21-22年度科学研究費補助金(若手研究B 21760541)を受けて実施されたものである。

教員紹介

TEACHERS

渡辺雄二郎  准教授・博士(工学)

東京都豊多摩高校出身

略歴

法政大学工学部物質化学科卒。同大学大学院工学研究科博士課程(物質化学)修了。2005年本学講師を経て、本学生活環境研究所研究員。物質・材料研究機構リサーチアドバイザー(兼)。2012年本学講師就任。2014年現職。

専門分野

専門:無機材料化学、無機合成化学、環境化学
論文・著書:「ゼオライト系化合物による有害物質の除去と固定化に関する研究」(学位論文)、“Novel long-term immobilization method for radioactive iodine-129 using zeolite/apatite composite sintered body”(ACS Appl. Mater. Inter.)ほか
受賞:無機マテリアル学会永井記念奨励賞、日本イオン交換学会進歩賞

横顔

私は学生時代、野球やテニスなどスポーツに打ち込んできました。体育会系ならではのやる気と活力で、活発な発言や笑顔の絶えない覇気のある研究室作りを目指していきます。

趣味

スポーツ全般(野球、テニスなど)、スポーツ観賞、音楽鑑賞、ドライブ

近況

私が長年研究してきた無機多孔質材料「ゼオライト」は放射性物質に対する優れた除去能が認められ、高汚染水の回収プロセスに組み込まれています。現在、国のプロジェクトに参加し、ゼオライトを用いた農地土壌等の放射性物質の回収と安定化技術の開発に取り組んでいます。福島第一原子力発電所周辺の環境修復実現のため、今後もより一層研究を進め、応用範囲を広げていく所存です。

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