バイオ・化学部 生命・応用バイオ学科
尾関健二 研究室
有用な酵素と発酵微生物の力を借りて、食品廃棄物から素材開発のSDGsに挑戦
日本酒は米の成分を麹菌(国菌)によって分解し、酵母の力で発酵させてつくる。研究室では麹菌や酵母などの微生物と、米ヌカ、小麦フスマ、大豆オカラの食品廃棄物資源(バイオマス)に着目。有用な酵素の力と微生物による発酵の力によって、新たな機能性の高い素材(αEG、レジスタントプロテインなど)に変換するバイオコンバージョンに挑戦。SDGsの観点から廃棄物を出さない機能性素材を開発する。
キーワード
- 発酵
- バイオコンバージョン(SDGs)
- 機能性素材(食品・化粧品)
- α-エチルグルコシド(α-EG)
- レジスタントプロテイン(RP)
ニュース&トピックス
- 2024.12.06株式会社オリゼとの共同研究でオリゼソースに難消化性タンパク質が高濃度に含有されていることが明らかに
- 2024.10.07高温障害米の問題において、オンキヨー株式会社との共同研究に成果
- 2024.05.14「物語の始まりへ」に進藤菖さんが紹介されました
- 2023.09.06尾関健二教授の取り組みが「Wellulu」に掲載
- 2023.05.02「物語の始まりへ」に山川達也さんが紹介されました
- 2023.02.14「物語の始まりへ」に小野尭明さんが紹介されました
- 2022.09.14『文藝春秋』2022年10月号の「KITキャンパスレポート」に中嶋唯人さんが紹介されました
- 2022.06.30コラゾン、ぶんご銘醸の共同研究により開発された米麹甘酒「A amasake」が7/1日より発売
研究紹介
バイオマスのバイオコンバージョン、麹菌での有用物質生産、有用物質の発酵生産と有害物質低減化技術の開発
研究内容
日本酒の特有の並行複発酵の結果、麹菌の酵素と酵母のアルコールにより生産するα-エチル-D-グルコシド(αEG)は角質細胞の荒れ肌改善効果がある。日本酒、焼酎、酒粕再発酵、みりんなどの発酵物にαEGを高含有する発酵法を開発した。0.001%αEGでも短時間でのヒト皮膚での水分蒸散抑制機能が高いことが分かった。また真皮層の線維芽細胞の細胞賦活効果が非常に薄い濃度(0.00001%)で認められ、コラーゲンの生産能力に影響がある新しい保湿機能が高いことを証明した。また線維芽細胞の増殖遺伝子とコラーゲンを生産する関連遺伝子にも非常に低濃度(0.000001%)で発現が誘導されることを報告した。吟醸酒粕の焼酎仕込で高含有法を開発し、蒸留残渣にαEGが生産でき、これまで廃棄処理された蒸留残渣からαEGを配合したシャンプー、石鹸などの日用品を開発に成功した(産学連携)。また現在焼酎蒸留残渣の廃棄物からαEGとその他の機能性物質に全活用する技術開発に成功した。最近αEGがヒトで飲用でも塗布でも真皮層のコラーゲン密度が高まることを学術的に証明し、これまで日本酒を多く飲用する杜氏、蔵人、力士の肌にハリがあると伝承的に言われてきたことが、αEGに起因することが分かった。この学術的証明でαEG高含有酒とそのハンドクリームが商品化となった(地域連携)。現在飲用および塗布でのαEGの有効濃度などを検討している。米ヌカ、小麦フスマ、大豆オカラは3大食品廃棄物(バイオマス)であり、ヘミセルロースを高含有する。食品用酵素剤を用いて、大豆オカラのヘミセルロースはほぼ分解できる条件を確立し、米ヌカと小麦フスマは最大に可溶化できる最適条件を確立中である。またこれらのヘミセルロース可溶化素材には、新規にチロシナーゼ阻害活性があることが判明した。また各種機能性について検討中である。各種加工食品(コーヒー、ほうじ茶など)中の発がん性があるアクリルアミドを低減化できる麹菌バイオリアクターを開発した。また分解遺伝子を特定し、麹菌低減化法を確立した。
教員紹介
尾関健二 教授・博士(農学)
略歴
専門分野
専門:高温障害米用の醸造酵素剤開発、麹菌・酵素分解・酵素生産(アクリルアミド、αEG)、バイオコンバージョン(バイオエタノールを含む)、機能性食品・化粧品素材開発、有用物発酵生産(αEG、レジスタントプロテインなど)
学生へのメッセージ
私は大学院卒業後に日本酒メーカーの大関で24年間、大学にお世話になって20年目を迎えます。研究テーマはライフワークとして麹菌関連であり、不思議な縁で麹菌のゲノム解析をいかに利用できるかを考える大学のゲノム生物工学研究所に所属し、大学院生や大学生の研究テーマに麹菌関連を盛り上げる研究テーマを考えてきました。これまでに麹菌の能力を生かした奥が深い発酵物である日本酒、一番単純な発酵物である甘酒などの成分の機能性を研究しています。石川県は麹菌をはじめとする発酵産業が盛んで、日本酒、醤油、味噌、いしる、かぶら寿司、甘酒、フグの卵巣の糠漬けなどがあり、この麹菌の能力に着目し胃腸薬「タカジアスターゼ」を開発したのが、地元の偉人である高峰譲吉博士です。従って授業やプロジェクト活動で高峰先生の業績を実験など通じて教えあう機会を設けて、伝承していってもらいたいとも考えて教育研究に取り組んでいます。
「麹菌研究を振り返って」生物工学会誌,99,571(2021)https://www.jstage.jst.go.jp/article/seibutsukogaku/99/11/99_99.11_571/_pdf/-char/ja
担当科目
分子生物学 バイオ・化学基礎実験・演習B(応用バイオ) 食品栄養学 プロジェクトデザインⅢ(尾関健二研究室) バイオ工学入門 専門ゼミ(応用バイオ学科) バイオ工学研究(尾関健二) 酵素工学統合特論