工学部 航空システム工学科

廣瀬康夫 研究室

HIROSE Yasuo
LABORATORY

複合材航空機構造を革新して新しいコンセプトの構造を適用した安全で環境に優しい航空機の研究に取り組む

大型旅客機には、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が広く使われているが、現状では複合材料の特長を十分に活かした構造様式になっていない。そこで、より軽量で製造コストが安い構造様式として、発泡コアサンドイッチパネルを研究して、航空機構造に適用し、安全で環境にやさしい航空機の実現に取り組む。さらに、現在多用されているCFRP積層板についても、層間き裂の進展を抑制する簡便な手法の研究を進めている。

キーワード

  • 炭素繊維強化プラスチック
  • 複合材料
  • 革新的構造の追究
  • 環境に優しい航空機
  • 層間き裂進展抑制

研究紹介

RESEARCH

航空機複合材構造の研究ー再使用宇宙往還機の構造概念設計ー

研究内容

最新の航空機構造では複合材料の適用が進んでおり、B787では従来の尾翼に加えて、主翼や胴体にも炭素繊維強化複合材料(CFRP)が適用されている。また、一方で、CRFPにつては、優れた力学的特性を持つ材料の研究開発が進んでいる。しかしながら、これらの優れた特性を持つ材料を航空機構造の適用した場合の利害得失(構造重量の軽量化、直接運航費(DOC)の低減効果、航続性能の向上等)についての研究が広く行われているとは言えない状況である。ここでは、JAXA殿との共同研究で実施した再使用宇宙往還機の構造概念設計において、アルミ構造、複合材(積層板)構造、発泡コアサンドイッチ構造の3種類の構造様式を想定した場合の機体構造の重量軽減効果を評価した例を示す。

航空機複合材構造の研究ーCAI強度向上が構造重量軽減に与える効果の評価ー

研究内容

最新の航空機構造では複合材料の適用が進んでおり、B787では従来の尾翼に加えて、主翼や胴体にも炭素繊維強化複合材料(CFRP)が適用されている。また、一方で、CRFPについても、優れた力学的特性を持つ材料の研究開発が進んでいる。しかしながら、これらの優れた特性を持つ材料を航空機構造の適用した場合の利害得失(構造重量の軽量化、直接運航費(DOC)の低減効果、航続性能の向上等)についての研究が広く行われているとは言えない状況である。ここでは、圧縮の設計許容値に大きな影響がある衝撃後圧縮強度(CAI強度)の向上と構造重量軽減効果の関係について数値解析を用いた構造概念設計により評価した結果を示す。

発泡コアサンドイッチパネルのき裂進展抑制手法の研究

研究内容

航空機構造への複合材料の適用では、金属材料の構造様式を踏襲して材料のみを置き換えた事例がほとんどであり、一体成形に適した複合材料の特長が十分に活されていない。厳しい安全性要求を満足しなければならない航空機構造として、実績がある構造様式を採用するのは歴史の流れから当然であるが、一方では複合材料に適した新しい構造様式の研究も必要である。発泡コアサンドイッチパネルは一体成形に適した構造様式であるが、目視不可能な損傷から進展する、面板とコア間のき裂による強度低下を防止することが課題であった。このため、発泡コアサンドイッチパネルの面板とコア間の界面き裂の進展を抑制するアイデアであるクラックアレスターを考案して研究を進めている。き裂先端のエネルギー解放率Gを低減して、界面の破壊じん性値GCに対して、G<GCとすれば、き裂の進展を防止/抑制できるので、サンドイッチパネル内のき裂の進展経路にコア材より剛性が高い材料を配置することにより、その位置でGの値を低下させて、き裂の進展を停止または抑制するアイデアをクラックアレスターと称している。アレスターには種々の形態があり、それらの個々の特性や組み合わせた場合の効果など検討すべきテーマが多いので、引き続き研究を進めている。

複合材積層板のき裂進展抑制手法の研究

研究内容

航空機構造等に多用されているCFRP積層板では、層間の樹脂層内を進展するき裂により内部にはく離が生じて耐荷能力を失うことが大きな課題である。この対策として層間の樹脂層を高靭性化する方法や銀-ナノワイヤーメッシュを挿入する方法などが考案されているが、本研究では、発泡コアサンドイッチパネルの界面き裂の進展を抑制する手法であるクラックアレスターを積層板構造に応用して、き裂進展経路である層間の樹脂層にCFRP製のアレスターを挿入することにより、局所的に見かけの層間破壊じん性値を向上させて、はく離の進展を抑制する方法を提案する。この手法では、層間にCFRPプライを挿入するという簡便な方法で層間はく離による初期破壊が生じる個所に対して、はく離の発生/進展を抑制することが可能になる。また、航空機の複合材構造に必須な自動積層機を用いた製造システムにも容易に適用可能である。層間に挿入するアレスターの形状や力学的特性、母材である積層板の特性との関連など、まだ未検討の項目が多いので引き続き研究を進めている。

炭素繊維強化複合材料のリサイクルと構造要素への適用に関する研究

研究内容

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は航空機構造等への適用が進んでいるが、製造過程で廃棄されるプリプレグや硬化後の廃棄積層板については埋め立て処理等が主流で、リサイクルについては限定的である。プリプレグを含むCFRPから繊維を取り出す技術は実用化されているが、取り出した炭素繊維を実構造に適用するにはまだ課題が多い。そこで、本研究では、従来の手法でプリプレグを含む廃棄CFRPから取り出した炭素繊維を構造要素レベルの供試体に適用してその効果を評価する。
 具体的には、廃棄プリプレグと廃棄積層板を対象とした材料から炭素繊維を抽出する。、プリプレグからは化学分解法により溶剤によって樹脂を分離させ,炭素繊維を取り出した。また、積層板からは、熱分解法により窒素雰囲気中(N2ボンベ圧力:0.2[MPa], 空気流量30[ml/min])において温度500℃で120min加熱して炭素繊維を抽出した。

抽出した炭素繊維は、積層板クラックアレスターとして積層板の層間に挿入して、モードⅡ型破壊じん性試験(ENF試験)により、き裂進展抑制効果を評価した。
評価したリサイクル炭素繊維は、溶剤により抽出した炭素繊維をアレスターに用いた供試体を、MEK-long
(連続炭素繊維を用いたアレスター)、MEK-short(繊維長8mmの炭素繊維を用いたアレスター)と称する。また、熱分解法により抽出した炭素繊維をアレスターに用いた供試体を、RCFと称する。

これらの供試体を用いてモードⅡ型破壊じん性試験を行い、その結果をリサイクル前のプリプレグを用いたアレスターと比較した。その結果,リサイクル前後でアレスターによるき裂進展抑制効果に変化がないことを確認したので,リサイクル処理によって炭素繊維の剛性は変化しないと考えられる。このことから,剛性の必要な構造物へのリサイクルCFRPの適用は有効性があるが,リサイクル処理の方法や繊維の配置方法などによって個体差が出るため,ロバスト性を考慮した設計が必要であることが分かった

教員紹介

TEACHERS

廣瀬康夫  教授・博士(工学)

略歴

1973年
3月
大阪府立北野高等学校 卒業

1977年
3月
京都大学 工学部 航空工学科 卒業

1979年
3月
京都大学大学院 工学研究科 航空工学専攻 修士課程 修了

1979年
4月
川崎重工業(株) 航空宇宙事業本部航空宇宙事業部技術部構造設計課 

2001年
4月
京都大学 工学部物理工学科 非常勤講師 

2007年
4月
川崎重工業(株) 航空宇宙カンパニー技術本部民間航空機設計部民間機設計課 課長 

2009年
4月
川崎重工業(株) 航空宇宙カンパニー技術本部民間航空機設計部 上級専門職 

2010年
4月
金沢工業大学 工学部 機械系 航空システム工学科 教授 

2018年
4月
金沢工業大学 工学部 航空システム工学科 教授 

2020年
4月
金沢工業大学 副学長 

専門分野

専門:き裂進展抑制、発泡コアサンドイッチ構造、耐損傷性、航空機構造、複合材料

学生へのメッセージ

私は、航空機メーカー出身の教員で、航空機の研究、開発、設計、製造の仕事に30年間従事していました。金沢工業大学には、2010年に赴任して航空システム工学科を担当しています。本学の建学の綱領(「人間形成」、「技術革新」、「産学協同」)や自ら考え行動する技術者を育成するという大学の方針は、企業での勤務経験と共通する部分が多いので、大学の教育・研究を通して社会に役立つ人材を育成したいと思っています。
また、近年、広範囲な自然災害が多発し深刻な被害状況の報道に接すると自然の猛威の前には人間の営み、とりわけ科学技術の成果も無力であることを思い知らされます。しかしながら、同時に、人の命を救い社会を守る最後の砦の一つが科学技術であるという思いも強く感じます。
このような環境下で、大学としても産学連携による教育・研究の充実を図り、今後はさらにこの環を広げ、グローバルなビジネスの最前線で活躍できる人材の育成を目指します。学生の皆さんも、古都金沢の落ち着いた雰囲気の下で充実した学生生活を過ごし、自分の目標達成に向かって進んください。

担当科目

航空入門  航空システム専門実験・演習A  プロジェクトデザインⅢ(廣瀬康夫研究室)  EARTH&SPACE環境機械工学研究(廣瀬康夫)  革新飛翔体特論  

オリジナルコンテンツ

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