バイオ・化学部 環境・応用化学科
小野慎 研究室
化学を駆使してタンパク質の新しい機能を創造する
酵素などのタンパク質の分子表面には窪みや突起があり、これによってタンパク質は様々な分子をその形や性質によって選り分けて結合することができます(分子認識と言う)。タンパク質に人工的に別の分子を繋げたり、タンパク質2量体を創ったりすることで、思いのままに分子を選別する能力を持つタンパク質を設計できる可能性があります。研究室では、人工的な新しい分子認識機能を持つタンパク質の設計に挑戦しています。
キーワード
- 機能性ペプチド
- 酵素
- 生体機能関連化学
- バイオコンジュゲート
- 分子設計
研究紹介
ジフェニルホスホネート阻害剤の立体構造はキモトリプシンの選択的化学修飾反応に影響する
研究内容
ジフェニルホスホネート型阻害剤を利用してキモトリプシンのLys175に選択的に外部から分子を導入することができます.しかしこれまでは,ジフェニルホスホネート阻害剤部分は鏡像異性体(R体とS体があります)の混合物を使っていました.キモトリプシンはこれらの鏡像異性体を別の分子として認識することが知られていて,鏡像異性体の一方は化学修飾反応に有利に促進しても,他方は反応性が低く有効に働かないと予測されていました.
そこで,ジフェニルホスホネート阻害剤部分の鏡像異性体のR体とS体をそれぞれ含む分子を合成して,キモトリプシンに対する化学修飾反応の収率を比べてみました.その結果,R体のジフェニルホスホネート阻害剤を含む分子がキモトリプシンと速く反応することがわかり,その有用性が示されました.今後の研究では,R体nジフェニルホスホネート阻害剤を大いに利用して新規なタンパク質を創ることを目指しています.
これまでの1連の研究が,レビュー雑誌に紹介されました.
Recent Developments in Peptidyl Diaryl Phosphonates as Inhibitors and Activity-Based Probes for Serine Proteases, Pharmaceuticals 2019, 12, 86; doi:10.3390/ph12020086
配向を制御した酵素複合体を創り新しい分子認識システムを構築する
研究内容
アミノアルキルジフェニルホスホネート誘導体は、セリンプロテアーゼの活性Ser残基と特異的に反応する不可逆性阻害剤として知られています。研究室では、アミノ酸のフェニルアラニン(Phe)の構造と類似した1-amino-2-phenylethylphosphonateをペプチド誘導体化することでLys側鎖に反応する化学修飾分子を設計し、キモトリプシンの活性部位周辺に存在するLys175に選択的に外来分子を導入する方法を開発して研究を続けています。次の挑戦では,この方法を応用してキモトリプシンを利用した新しい分子認識システムの構築を目指しています。キモトリプシンの配向を制御して2量化することを目的に、キモトリプシンのLys175を標的にした化学修飾分子の構造と性質を基にして、2量化分子を設計しています。天然にはHIV-1プロテアーゼなど2量体で機能する酵素やタンパク質がいくつも存在するため、キモトリプシンの配向を制御して2量化することで、新たな分子認識表面の構築が期待できます。
教員紹介
小野慎 教授・博士(理学)
略歴
専門分野
専門:酵素化学、ペプチド科学、生化学
学生へのメッセージ
生命科学分野の授業と学生実験を担当し、アミノ酸・ペプチド・タンパク質を中心に生体分子の構造と機能に関する研究を行っています。大学4年次に研究室に初めて足を踏み入れてからずっと、アミノ酸をつなげてペプチドを合成し、そのペプチドをどのように利用すると面白いかを考えて試行錯誤してきました。自然には存在しない物質を自分で設計してその物質の効果を調べる研究です。ここには自分で選んで試してみるという自由があります。私はこの「自由」が何よりも好きです。「大学での自由」というのはどのようなものでしょうか。私の場合、「やりたいことを思いっきりやれる」ということです。皆さんも「大学での自由」とはどのようなものかを考えて、この金沢工業大学の中で思いっきり「自由」を見つけて楽しんでもらいたいと思います。
担当科目
基礎生化学 生命科学 応用化学専門実験・演習B3 プロジェクトデザインⅢ(小野慎研究室) 応用生化学 バイオ・化学基礎実験・演習B3(応用化学) 有機・バイオ機能化学 専門ゼミ(応用化学科) 有機・高分子機能化学研究(小野 慎) 応用化学統合特論 有機・高分子機能化学特論
研究業績
論文
- Site-Selective Incorporation of a Functional Group into Lys175 in the Vicinity of the Active Site of Chymotrypsin by Using Peptidyl α-Aminoalkylphosphonate Diphenyl Ester-Derivatives
- Statuses of food-derived glutathione in intestine, blood, and liver of rat
- Site-Selective Chemical Modification of Chymotrypsin Using Peptidyl Derivatives Bearing Optically Active Diphenyl 1-Amino-2-Phenylethylphosphonate: Stereochemical Effect of the Diphenyl Phosphonate Moiety
- 光合成初期過程への超分子化学からのアプローチ PDB構造データに準拠した光合成系における励起遷移過程の計算手法の提案
- Anti-inflammatory effect of pyroglutamyl-leucine on lipopolysaccharide-stimulated RAW 264.7 macrophages
- In vitro and ex vivo uptake of GSH across the intestinal eptherium, and fate of oral GSH after in vivo suplementation
- Covalent Chromatography for Chymotrypsin-like Proteases Using a Diphenyl 1-Amino-2-phenylethylphosphonate Derivative
- Site-selective Chemical Modification of Chymotrypsin Using a Peptidyl Diphenyl 1-Amino-2-phenylethylphosphonate Derivative
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