バイオ・化学部 生命・応用バイオ学科

小田忍 研究室

ODA Shinobu
LABORATORY

バイオと化学で医薬を創る-カビ由来の医薬品・化粧品原料、天然香料の探索と生産システムの開発

水/有機溶媒界面に増殖するカビを用いた界面バイオプロセス群を開発し、抗生物質や抗ウイルス物質の探索、医薬品・化粧品原料・天然香料の高生産プロセスの開発を推進しています。また、薬剤耐性バイオフィルムの新規な定量法と駆除技術の開発にも取り組んでいます。応用バイオ学科1~3年生の天然物創薬プロジェクトメンバー(大学院に進学し、製薬会社の技術職を目指す学生が多い)も、これらの先端的な研究に参加しています。

キーワード

  • 医薬品原料 抗菌・抗ガン・抗ウイルス物質
  • 天然香料と化粧品原料
  • バイオフィルムと薬剤耐性
  • バイオリアクターによる物質生産
  • カビと放線菌、カビ胞子

研究紹介

RESEARCH

Fungi World:無限の可能性を秘めた様々なカビたち【小田研カビ・ライブラリーの紹介】

研究内容

北陸地方を中心に全国各地から分離した多種多様なカビを中心とする、5,000種以上のカビ・ライブラリーを擁しています。これらの中には、抗生物質や抗ガン活性物質、抗ウイルス活性物質や抗炎症物質、コレステロール低下物質や抗肥満物質などの医薬候補物質、天然香料や化粧品原料を生産できる株も多数含まれています。 【カビコロニーの写真は不定期(2週間毎程度)に更新します】

医薬品原料・化粧品原料・天然香料の界面発酵生産プロセスの開発

研究内容

世界で唯一、有機溶媒中で生きた微生物の発酵能を利用できる小田研オリジナルな界面発酵ファーメンターを用いて、多様な生物活性を示すアザフィロン系化合物(sclerotiorin, rubropunctatin, monascin)、抗カビ活性を示す機能性香料(化粧品・食品用)原料などの生産研究に取り組んでいます。これらのバイオプロセスでは、生産されるアザフィロン類や香料原料が自動的に有機溶媒中に抽出されるため、それらの強い微生物毒性や水不溶性といった諸問題を全て解決できます。そのため、従来法(液体培養法や固体培養法)をはるかに上回る高濃度でこれら標的化合物群を生産することができます。例えば、ココナッツ様香気性を示す抗カビ物質の6-pentyl-alpha-pyrone (6PP、香料原料)の有機層中の蓄積濃度は、カビの致死濃度の14倍、世界記録の生産濃度の15倍、生物活性アザフィロン類の生産濃度は従来技術の数十倍に達しています。これらの標的物質に関しては、後で述べる実生産システムのプロトタイプとなる高層型界面ファーメンターの構築にも取り組んでいます。

界面微生物変換法による医薬品原料(抗ガン活性物質)の合成

研究内容

カビは高い立体選択性や位置選択性で化学反応を触媒する多様な酵素を持っています。世界で唯一、有機溶媒中で増殖中のカビを微生物変換(微生物を用いた有機合成)に利用できる界面バイオリアクターを基幹として、立体選択的な水酸化やエポキシ化反応などの微生物反応を検討しています。テルペン系の光学活性体を中心に、医薬品原料として有用な精密化学品や高付加価値な天然香料原料の高生産プロセスの開発に取り組んでいます。また、細菌や酵母へも適用可能な新規な界面バイオプロセスの開発やカビ胞子を用いた新規な非水系物質変換プロセスの構築、天然物の微生物変換による抗ウイルス物質の合成研究も推進中です。カビの胞子は菌糸が持っている数多くの酵素を有し、なおかつ、菌糸では耐えられない中極性の有機溶媒(難溶性基質の溶解性に優れる)中でも価値ある微生物変換反応を触媒することができます。有機溶媒中での胞子を用いた酸化還元反応についても世界で初めて成功しました。さらには、このように有用なカビ胞子の効率的な大量生産法である「疎水的増殖場」法も開発しました。

微生物変換法・発酵法による天然香料の高生産

研究内容

生体触媒を用いて100%の基質をエポキシ化して、高付加価値でありかつ高純度な天然香料の高生産技術の開発にも取り組んでいます。従来の液体培養法では基質の強い毒性が発現するため標的とする香料原料(エポキサイド)を高生産することは不可能でした。界面バイオリアクターでは、そのような基質の強毒性を著しく回避することができ、さらには基質濃度100%を達成可能です。これにより、従来技術の数百倍もの産物濃度を達成することができ、産物の回収コストも著しく低減可能です。得られる香料・化粧品原料は高純度なため、それらの化学的安定性も高くなります。さらにはまた、実生産を指向した界面バイオリアクターのスケールアップも検討中です。

実生産用界面バイオプロセスのプロトタイプの構築

研究内容

界面ファーメンター(発酵生産用)と界面バイオリアクター(微生物変換用)の実生産システムの構築を目的として、これら2つの新規システムのプロトタイプを開発中です。生産物を結晶化槽中で選択的に結晶化・回収する「結晶化槽併設式高層型界面ファーメンター(CRU-IFF)」、生産物を吸着材で連続的に吸着・濃縮・回収する「吸着槽併設式高層型界面ファーメンター(ASU-IFF)の2種のプロトタイプを開発し、これらの工学的基礎研究と応用研究を推進中です。これら両システムでは微生物の増殖・発酵生産場から生成物を自動的に連続除去できるため、①生成物阻害を回避できる、②生成物の過剰分解を抑止できる、③生成物の回収・精製コストを大幅に削減できる、④カタボライト抑制(利用し易い栄養源を大量に添加できない現象)を回避可能、⑤通気攪拌不要(有機溶媒の循環のみでOK)など、実生産上極めて重要な長所がいくつも確認されています。

新型コロナウイルス感染症との戦い

研究内容

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は弱毒化してきているとは言え、変異を繰り返しつつ感染が続いています。それの速い変異速度により、高い感染能を保持したままでワクチンが効かなくなる、あるいは強毒化した変異株や変異種が登場してくる危険性もあります。ワクチン接種と並んでウイルス感染症を食い止める有効な手段は、抗ウイルス剤の投与です。当研究室では、SARS-CoV-2増殖の鍵酵素であるRNA依存性RNA polymerase(RdRp)を選択的に阻害し得るカビの二次代謝物の探索を進めており、数種の候補物質を見出しています。さらにはまた、当研究室で高生産可能な上記の2種のアザフィロン系代謝物であるsclerotiorin(試薬価格で6千万円/g)とrubropunctatin(試薬価格で1億3千万円/g)へのアミンの導入反応により、SARS-CoV-2のRdRpを選択的に阻害し得る新規な半合成アルカロイドの創製にも取り組んでいます。

新規な抗菌・防カビ・防藻性能評価法の開発と応用

研究内容

固体表面に増殖する微生物は、菌体外に厚い多糖層を形成して薬剤や熱などに対して強い抵抗性を獲得します。このような多糖層に覆われた微生物膜をバイオフィルムと言います。薬剤耐性やインプラント等の医療器具の汚染の鍵となるバイオフィルムについて、各種素材表面におけるバイオフィルムの定量法(Plate-hanging法)並びに抗バイオフィルム性能の正確な評価法(Biofilm-replica法)を開発しました。また、形成されたバイオフィルムを速やかに駆除できる新たな創薬戦略の構築にも取り組んでいます。その他、塗板等の固体表面の防カビ性能を簡便かつ正確に定量化可能な評価法(菌糸侵入距離法)、防藻性能評価法(逆拡散ペーパーディスク法)、防カビ剤の性能評価法(修正菌糸侵入距離法)等も開発し、企業においての製品評価に活用されています。

教員紹介

TEACHERS

小田忍  教授・博士(農学)

略歴

1979年
3月
山口県立小野田高等学校 卒業

1983年
3月
山口大学 農学部 農芸化学科 卒業

1986年
3月
九州大学大学院 農学研究科 食糧化学工学専攻 修士課程 修了

1986年
4月
関西ペイント(株) 技術研究所 バイオ部門 

1996年
3月
鳥取大学大学院 連合農学研究科 生物資源科学専攻 博士課程 修了

2002年
4月
関西ペイント(株) 分析センター 主査 

2003年
7月
メルシャン(株) 生物資源研究所 研究員 

2008年
1月
金沢工業大学 バイオ・化学部 バイオ・化学系 応用バイオ学科 教授 

2018年
4月
金沢工業大学 バイオ・化学部 応用バイオ学科 教授 

専門分野

専門:有用微生物探索、バイオフィルム、バイオリアクター、発酵工学、生体触媒化学

学生へのメッセージ

 カビなどの微生物を使った医薬品原料(抗生物質、抗ガン・抗ウイルス物質)の探索・生産研究と天然香料・化粧品原料の生産研究に取り組んでいます。そのための基幹技術として、世界で唯一、有機溶媒中で微生物を生きた状態で発酵や微生物変換(微生物を使った有機合成)に利用することができる「界面バイオプロセス」を開発しました。こららの界面バイオプロセス(界面ファーメンター、界面バイオリアクター)は、従来の液体培養法をはるかに凌ぐ有用物質の生産濃度を可能とするため、ラボスケールでの工業生産も可能と期待しています(ラボ・ファクトリー構想)。そのための大型実生産システムのプロトタイプの開発も進んでおり、結晶化槽併設高層式(CRU-IFF)並びに吸着槽併設高層式界面ファーメンター(ASU-IFF)を誕生させました。

 医薬品への関心は、小学4年生の頃に読んだ薬剤耐性菌に関する書物がきっかけです。大学院では動物が研究対象でしたが、企業の研究員の頃は微生物を用いた医薬品原料の合成を研究し、本学に移籍後は、小学生の頃に関心のあった「薬剤耐性菌との戦い」、そして最近では「病原性ウイルスとの戦い」にも取り組んでいます。上記の界面バイオプロセスの実用化研究並びにバイオフィルムの新規な破壊技術の開発など、多彩な研究開発を、小田研究室の大学院生と学部生、天然物創薬プロジェクト(オナーズプログラム)に所属している1、2、3年生の志願者と一緒に推進しています。
座右の銘は、人類屈指の大天才G.W. ライプニッツ先生の「伸びんがために、我屈せん」、趣味は研究関連文献情報の収集と解析、科学哲学と近代史の研究、日本酒を楽しむことなどです。

担当科目

有機化学Ⅱ  生化学  応用バイオ専門実験・演習A  進路セミナーⅠ  プロジェクトデザインⅢ(小田忍研究室)  有機化学Ⅰ  専門ゼミ(応用バイオ学科)  進路セミナーⅡ  バイオ工学研究(小田 忍)  基礎生化学特論  

オリジナルコンテンツ

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