情報理工学部 知能情報システム学科
金野武司 研究室
人のコミュニケーションに潜む仕組みの理解と応用
通信機能を持つ機械は我々の身近に溢れており,この流れは今後ますます加速する.この流れの中で,人と機械は単なる情報のやりとりから,心を伴う知識のやりとりへと進むことが期待される.しかし,機械は人が自然に行なうコミュニケーションが苦手である.我々の研究室では,情報伝送タイミングの切り替えや,記号の交換による意図の伝達といった,人の持つコミュニケーションの仕組みを機械が備えることの可能性を探求する.
キーワード
- 意図的・記号的コミュニケーション
- 文脈依存型情報伝送
- 知識共創
- 認知科学
研究紹介
金野研究室での研究の特徴
研究内容
金野研究室では,人工知能を計算機やロボットに実装し,人とのインタラクション実験を実施する.研究を通じて,計算機やロボットを扱う工学的知識(プログラミング:Python, MATLAB, C,センサー処理,モータ駆動など)はもとより,心理実験を実施する知識や,得られたデータを統計的に処理・分析する知識を身に着けることになる.また,人間の生体情報を取得するために,脳波・心拍・視線のデータを取得する計測器も扱う.現時点では研究課題に至っていないが,人工物とのより柔軟なインタラクションを実現するための試行環境としてVRやARの装置の導入と利用を進めている.
人間の記号コミュニケーションにおける通信方式の特殊性の解明
研究内容
人のコミュニケーションで交わされることばには字義通りの意味と共に言外の意味が含まれている.人は言外の意味を推定し,他者の意図したものを正しく推定することができる.一方で,その意図を推定するメカニズムは未解明なところが多い.我々は「実験記号論」を基にした認知実験(メッセージ付きコーディネーションゲーム)を設計・実施すると共に,その計算モデルを構築し,言外の意味を共有するための仕組みを分析している.この計算モデルを使い,我々はその計算モデルと人間との間でのメッセージ付きコーディネーションゲームの実験を実施している.この実験により得られる知見は,情報端末に搭載されているAIエージェント等への応用を考えることができる.この研究に興味がある方は以下の論文を参照いただきたい.
大田 琉生, 中野 稜介, 金野 武司(2022). 記号コミュニケーションシステムの形成過程において起こる意味の重複の解消方法とその効果の検証, 2022年度日本認知科学会39回大会予稿集, pp.216-218.
https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2022/proceedings/pdf/JCSS2022_P1-008.pdf
二者間インタラクションにおけるターンテイキングダイナミクスの解明
研究内容
人どうしでの自然なコミュニケーションに比べると,我々は人工物(ロボットや情報端末など)との間でのコミュニケーションに違和感を持つことが多い.人どうしでのコミュニケーションにおいて,何がその自然さをもたらしているのだろうか.先行研究では,触覚を用いたインタラクション実験を通じて,相手の人らしさを判断するコミュニケーションの特徴としてターンテイキングの重要性が指摘されている.これに対し我々は,視覚的なインタラクションにおいてもターンテイキングのようなコミュニケーションパターンが生じるのかを確認するため,視覚的なインタラクション環境での実験を設計し,認知実験を実施している.この実験においては,人と計算機でのインタラクション条件を加え,様々なタイプの動き方をする計算モデルとのコミュニケーションパターンを分析することで,人どうしの「自然な」コミュニケーションの実態解明を目指している.この実験によって得られる知見は,人の人工物に対する親和性の向上に貢献すると考えられる.この研究に興味がある方は以下の論文を参照いただきたい.
池ヶ谷 啓伍, 金野 武司, 清水 悠生, 長原 瑛吾 (2022). 人-計算機インタラクションでの視覚的手がかりの提示による不自然さへの気づき, 2022年度日本認知科学会39回大会予稿集, pp.644-647.
https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2022/proceedings/pdf/JCSS2022_P2-023.pdf
察する人工知能をつくろう
研究内容
人工知能は「察する」ことが苦手である.深層学習の発展によって,例えばカメラから取得する画像に映る物体を識別することなどは人間に近いレベルになりつつある.しかし,人間がどういった物体に注目しているのか?といったことまでを人工知能だけで行なう(察する)ことは非常に困難である.そこで我々は,人工知能にだけ任せるのではなく,人間にも少し手伝ってもらう方法の実現を試みている.その手伝い方として取り組んでいるのは人間の片言のつぶやきを取り入れる方法である.音声認識と単語処理によって人間のつぶやきを拾い,人間が注目しているだろう意味のネットワークをインタラクティブに(相補的に)形成させることが目標である.我々はこの研究で,人と機械が協力し合うシステムの構築を目指している.スタートしたばかりの研究なので,現時点では学会などへの対外的な成果発表はない.
教員紹介
金野武司 准教授・博士(知識科学)
略歴
専門分野
専門:認知科学、言語進化、知識科学、実験記号論、ヒューマン ロボット インタラクション、共同注意、意図共有
学生へのメッセージ
私は工業高校の電気科から工業大学・大学院に進み、自分が乗って動かせるようなロボットを作ってみたいなどと激しく楽観的に考えて産業機械メーカーに就職した記憶があります。そうして仕事をするうち、次第に自分が本当にやってみたいのは人間という生き物の不思議を探究することであると考え始め、もう一度大学院に入り直し、知識科学という博士の学位を取得しました。このときで30半ばになっていたと思います。エンジニアから研究者へと変わった今に至るまで、気がつけば始まりの電気工学から、情報工学、心理学、認知科学、哲学など、多くの学問に触れてきました。人生は紆余曲折、楽しいと思える方へ向かうことはいつでもできるのだと思います。大学はそれを自らの力で実現するための基盤となる能力を養うことのできる場所の1つです。探究の入り口に立とうとする学生に、日々出会えることを楽しみにしています。
担当科目
電気回路基礎 電気回路Ⅰ 電気電子プログラミング演習 電気回路Ⅰ(再履修クラス) 自動制御 プロジェクトデザインⅢ(金野武司研究室) AI応用Ⅱ(自然言語処理)(春期集中講義) 音響・映像システム 専門ゼミ(電気電子工学科) 専門ゼミ(情報工学科) 音響・映像工学研究(金野武司) 音響・映像統合特論
研究業績
論文
- 短時間育児支援のための対話ロボットの研究
- 道徳的ジレンマ状況でのロボットの行為への評価に対して大規模言語モデルを用いた対話が与える影響
- ハイフレックス講義の環境がもたらす恩恵と課題-電気電子工学科における専門基礎科目での実践を通じて-
- 新規な記号コミュニケーションシステムの形成に及ぼす自閉傾向の影響
- Do we sense symbol as action to develop symbolic communication systems?
- Mechanisms of intentional joint visual attention
- 協調的コミュニケーションを成立させる認知的要因-認知アーキテクチャによるシミュレーション-
- Existence of phase synchronization, detected by electroencephalography, in the formation of symbolic communication systems
詳しい研究業績はこちら