福田一郎

 LP、それも12インチLPの登場は、音楽、レコード産業に関わるもろもろの普及、発展に大きく貢献したと断言できる。ここでは、そうした難しい話には触れない。12インチLPの出現は、多くジャズ・ファンに、新しい楽しみを与えたと、独断と偏見でそう理解している。それは、読む、見るというジャズLPの新しい楽しみ方である。


 LPが10インチから12インチに拡大され、大きく変わったのは、演奏時間の長さだけではない。ジャケットの大きさもある。大きくなったスペースを使い、ジャケットのデザインも変わってきて、当然だろう。PMCコレクションの中から、10インチと12インチのジャズLPを引っ張り出し、表のデザインを見比べて欲しい。どれほどの激変があったか、簡単に理解できる。例えば、コンテンポラリー・ジャズ・レコードのジャケットに面白い、魅力的なジャケットを幾つも発見出来るはずである。


 ジャズに関し独特な評論で知られる植草甚一さんに伺った話がある。一時期、輸入盤店のウインドウに飾ってある新しいLPジャケットに一目惚れ、買いまくったそうである。ところが、魅惑的なジャケットに比べ、音楽的内容の酷さに散々裏切られ、結果として、実に良い勉強になったというのである。


 読むというのは、裏ジャケットの解説、ライナーノーツである。スペースが大きくなったこともあり、執筆者も、内容も比較にならないほど充実し、読み甲斐もあるものが増えている。専門誌よりも内容のある解説が少なくなかったと記憶する。こうしたライナーノーツの充実は、ファンにジャズを学ぶという楽しさを教えたと確信している。


当時駆け出しの物書きだった僕は、1枚3千円、4千円もした高価な輸入盤なんざ、そうそう買えない。そこで先輩、友人から新しいLPを借りまくり、ライナーノーツをコピーし、繰り返し読んだものである。

福田一郎

音楽評論家  1925 ~ 2003