アナログ・レコードの生産がほぼ0%になるという記事を目にした時に、20世紀最大の文化ともいえるポピュラー・ミュージックを記録した貴重な文化財であるアナログ・レコードを保存したいと思い、それが金沢工業大学の協力で、<ポピュラー・ミュージック・コレクション>という形になって20年以上が経った。その間には<ジャケット・アート展>や<ロック50年史>という展覧会も<PMC>のコレクションを使って全国で開催され、改めてレコードの価値観というものが見直されたが、31.3cm×31.3cmという大きさの媒体は、アートを一般の世界に解放したということでも意味を持っているのである。
そして今やCDさえもがレコードと同じ運命を辿りつつあり、音楽が情報として流通している現実を考えると、アーティストが自分の思いをこめて形にしたアナログ・レコードが持つ、ある種のぬくもりは何物にも替え難い気もしてくる。それはLPだけではなく、シングル、SPなども含めて20万枚を超えたレコードのみならず、<PMC>に収蔵されている60年代からの音楽雑誌などにも共通していることだが、<PMC>の創設当初からさまざまな相談にのっていただき、毎年<PMC>を訪れてはその成長ぶりを喜んでくれた福田一郎氏の遺産であるレコードから書籍、雑誌に至るまでの膨大なコレクションが加わったことで<PMC>は音楽が音楽であった時代、ロックが熱い思いを伝えていた時代に人々を連れて行ってくれるタイム・マシーンの役割をさらに増した気がする。これからの<PMC>の価値と存在がどのくらい大きなものになるか、夢は限りなくふくらんでいく。
立川直樹
プロデューサー
1949年生まれ。東京都出身。60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、美術、舞台など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー、ディレクター。映画『マルサの女』(監督:伊丹十三)の音楽監督をはじめ、2005年に開催された『愛・地球博』では催事企画、スーパーバイザーとして、布袋寅泰と日本フィルハーモニー交響楽団、ヨーヨー・マ、松任谷由実といったビッグネームをフューチャーして会期を通して催された『Love The Earth』をプロデュースするなど、エンターテイメント分野を中心に雑誌などの媒体への執筆、コメント活動も展開。