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日本の歴史にまつわるエピソードを
知ることのできる読みやすい一冊
日本の歴史にまつわるエピソードを
知ることのできる読みやすい一冊
2021.3.19

『お父さん、
日本のことを教えて!
はじめての日本国史』

赤塚高仁/著
自由国民社 定価1,430 円(税込)
推薦
SL
古屋 栄彦 (ふるや しげひこ)
金沢工業大学
基礎実技教育課程 准教授
 昨年末に戦国武将のナンバーワンを決めるというバラエティ番組を見ました。一般投票に加えて専門家の投票やAIによる投票も加味されて順位が決まるものでした。AIが投票に加わる時代のようですね。ぼやぼやしているとAIにやられてしまいそうなので、自分の考えをしっかり持つことを忘れてはいけないと感じた年末でした。

 私を含めて同窓生のみなさんは石川県にいます(いました)ので、金沢百万石まつりで毎年話題になる前田利家公について調べられた方も多いのではないかと思います。様々な伝説も立場の違いによって「諸説あり」となり、真実が何かよくわからなくなることもありますが、それもまた過去を知るのに面白い情報です。

 話は変わりますが、今年度は世界的な感染症の影響によって海外への移動にかなり大きな制限が生じています。国際社会での活躍をめざす学生さんが理系・文系を問わず全国的に増加している中で、留学を断念せざるを得ない学生さんも多かったのではないかと思います。(独)日本学生支援機構が毎年行っている「日本人学生留学状況調査」の、2020年4月に公表された2018年度の調査結果を見ると、2018年度は11万人を超える学生が留学しています。なんと10年前(2008年度)の5倍です。近い将来、グローバルな社会で力を発揮する著名な日本人も身近な存在になることでしょう。そのような方が卒業生から現れることを祈るとともに期待しています。

 また、国のグローバル人材育成推進会議がまとめた「グローバル人材の定義」を見てみると、「グローバル人材」には次の3つの要素があるようです。
 <要素1> 語学力・コミュニケーション能力 <要素1> 語学力・コミュニケーション能力  <要素2> 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感 <要素2> 主体性・積極性、チャレンジ精神、
協調性・柔軟性、責任感・使命感
 <要素3> 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
<要素3> 異文化に対する理解と
日本人としてのアイデンティティー

どれも難しいですが、要素1と要素2は、留学したいという子供や孫に何を学べばよいかを伝えることはなんとなくできそうです。でも、要素3は厄介ですよね。特に、「自分のアイデンティティー」ならともかく、「日本人としてのアイデンティティー」ですから。

 世界の宗教の割合をインターネットで検索してみますと、おおざっぱに世界人口の7人に4人は一神教を信じている方々で、無宗教の方は7人に1人ほどだそうです。多くの日本人があてはまるのかどうかはよくわかりませんが、世界的には自分が無宗教だと考える人は少数派で、神の存在を信じている方が多数派のようです。

 グローバル社会というキーワードとこのようなデータを見ると、一神教を信じる方々の世界観を知るという異文化理解から始めたくなりますが、留学経験者が留学先で感じたことはそうでもないようです。

 今回ご紹介したい、『お父さん、日本のことを教えて! はじめての日本国史』は、ある高校1年生の娘さんが、アメリカの文化を学ぶために留学したホームステイ先での悲しい経験がもとになっています。アメリカの文化をたくさん知りたくて意気揚々と留学したのですが、「自分の国のことを全く語れないのに他国に何をしに来たのか?」と問われて惨めな思いをしたというのです。帰国後にそれを聞いたお父さんがいろいろ調べて、日本のことを一問一答形式でわかりやすくまとめ上げたのがこの本です。

 この本の最初の質問は、“日本は「いつ、誰が作ったのか」答えられますか?”です。一神教を信じる方々は皆さん、“世界は「いつ、誰が作ったのか」”は間違いなく、しかも明確に答えるのではないかと思います。一神教に馴染みのない日本人も、エデンの園のアダムとイブ、十戒のモーセ、ミケランジェロが像を制作したダビデといった人物やそれらにまつわるエピソードを聞いたことのある人も多いと思います。でも、中学校や高校の歴史で紹介された『古事記』の名前を知っていても、登場する方の名前やそれらのエピソードは憶えていなかったりしませんか?

 この本にも書かれていますが、一問一答の回答には「諸説」あります。ですから、ある視点では正しいかもしれませんが、ある視点では正しくないかもしれません。でもこれが歴史書を読む醍醐味です。書かれていることの「何が事実なのか」「どの解釈が妥当なのか」を自分で見極める力を養うことができます。人に代わって人気投票するAIには負けたくありませんから。

 お子さんやお孫さんから日本のことを聞かれたときのための教養とまではいきませんが、日本を語るクイズ番組で少し自慢できる程度にはなれると思います。たいへん読みやすいですので、一読いかがでしょうか。
PERSON
推薦
SL
金沢工業大学
基礎実技教育課程 准教授

古屋 栄彦 (ふるや しげひこ)
金沢工業大学機械システム工学科卒。同大学大学院修士課程(システム設計工学専攻)修了。2001年学位取得。金沢工業大学工学設計教育センター・夢考房技師、金沢工業高専講師、助教授を経て、教授。2011年金沢工業大学准教授。専門は工学教育。
PERSON
推薦
SL
古屋 栄彦
(ふるや しげひこ)
金沢工業大学
基礎実技教育課程 准教授

金沢工業大学機械システム工学科卒。同大学大学院修士課程(システム設計工学専攻)修了。2001年学位取得。金沢工業大学工学設計教育センター・夢考房技師、金沢工業高専講師、助教授を経て、教授。2011年金沢工業大学准教授。専門は工学教育。
「KIT Book Review」では、金沢工業大学ライブラリーセンターのサブジェクト・ライブラリアン(SL)が本を推薦します。SLは、ライブラリーセンターにおいて膨大な専門情報の内容や質を選択判断し、その収集や利用を立案実行する中枢機能です。本学の教授陣によって構成されており、自己の専門分野はもちろん、関連分野まで質の高い最新情報を把握しています。

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