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技術が進歩し
人類が宇宙にも進出した今
どこまで行くことができるのか
技術が進歩し
人類が宇宙にも進出した今
どこまで行くことができるのか
2022.11.2

『宇宙はどこまで行けるか』
小泉宏之/著
中公新書 定価1,100円(税込)
推薦
SL
森合 秀樹 (もりあい ひでき)
金沢工業大学
航空システム工学科 教授
 地球上に人類が誕生してから20万年以上たちますが、地球誕生後の46億年、最初の生命(単細胞生物)誕生後の40億年、哺乳類誕生後の2億年に比べればつい最近のことで、比較にならないほどの時間の短さです。一方で、この短い20万年の間に、世界人口は増え続けています。1万年前に農耕が始まったことをきっかけに人口増加が加速し、キリストが生まれた頃(西暦0年)には約1億7000万人にまで増加。西暦1500年には人口は約4億3000万人と、1500年ほどかけて2倍強と比較的ゆっくり増えていきました。その後、大航海時代の始まりとともに世界中に植民が進み、西暦1800年には10億人と、300年間で2倍強になります。さらに19世紀の産業革命とともに人口増加は加速し、1950年には30億人と150年間で3倍に増え、そこから現在までの70年間ほどの間に80億人とさらに3倍近く増えています。このように人類は、世界に広まるとともに爆発的に増えていますが(これを発展というのでしょうか)、その結果、現在では地球環境に深刻な影響を与えるほどの状況になっております。この後、人類は一体どうなっていくのでしょうか。

 人類が、たとえは悪いですが、ウイルスのように(たとえば地球全体に)広まることが一生命体としての使命であるとするならば、次は広大な宇宙へ向かって広まっていくことが必然ではないか――ということも一つの考え方としてあるでしょう。実際に、人類が出現してからの短い期間に、人類は移動の速度や高さを飛躍的に増大させ、地上のみならず空や宇宙へも進出し始めています。10万年前は徒歩約4km/hで陸路を移動するしかなかった人類が、大航海時代では帆船で海上を10km/hで進む速度を得た後、わずか120年ほど前の西暦1903年にはライト兄弟が航空機を48km/hの速度で飛行させることに成功し、そして、そのわずか66年後の1969年には最高速度約40,000km/hで人類は月に到達するに至るのです。

 さて、人類の宇宙進出という観点では、次なる目標は火星、太陽系内の他の天体、そして太陽系外へと進んでいくことが予想されます。しかしながら、地球の大きさに比べて宇宙はとてつもなく大きいですね。果たして、無限の大宇宙へ人類が進出していくことは可能なのでしょうか。現状の技術ではどこまで行けて、そしてさらにその先へ行くことを可能とする技術はあるのでしょうか。わくわく感とともに、とても興味が出てきますね。

 本書では、こうした内容について、専門知識のない人でも読み進められるように、地上から宇宙へ飛び出すために必要なロケットエンジンとは何か、から話が始まり、少しずつ遠くへ話が進み、人工衛星や宇宙ステーション、小惑星、太陽系内の惑星、太陽系外、そして隣の太陽系へ到達するには、どのような技術や宇宙船が必要でどのくらい時間がかかるか、といったことについてわかりやすく書かれてあります。まるで地上から宇宙へ、宇宙空間をさらに遠くへ遠くへと、宇宙のフロンティアを最新技術とともに旅しているような、そんな気分にもなれます。そして、私もそうなのですが、なんとかこうした人類の夢が実現できないか、本気で考え始めたりしている自分に気づいたりすることもあるかもしれません。

 本書の著者である小泉宏之先生は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)ではやぶさのイオンエンジンの運用や帰還時のカプセル回収などに従事した後、東京大学の先生になられたようです。小型衛星に用いるイオンエンジンをはじめとした宇宙推進エンジン研究の第一人者で、難しい技術を素人にもわかりやすく説明することがとても上手です。たとえば、隣の太陽系(隣の、ですよ)までどのくらい遠いかを以下のように表現しています。

「太陽を東京駅とした場合、太陽系の中で最も遠い海王星は山手線の隣駅の有楽町で、人類が最も遠くまで飛ばしている探査機のボイジャー1号は新宿の手前あたり、そして隣の太陽系(アルファ・ケンタウリといいます)はどこかというと、なんとドイツのベルリン(!)。」

 距離感がとてもわかりやすいですね。こんな遠くへ、一体どういう手段で、そしてどのくらいの時間をかければ人類は到達できるのでしょうか。ぜひ本書を手に取り、読まれることをおすすめします!
PERSON
推薦
SL
金沢工業大学
航空システム工学科 教授

森合 秀樹 (もりあい ひでき)
京都大学大学院工学系研究科機械理工学専攻博士後期課程修了。三菱重工(株)に30年以上勤務し、H2・H2Aロケット用のロケットエンジンや、民間・防衛用航空エンジンなどの開発設計・研究に従事。2021年金沢工業大学教授。専門は航空宇宙エンジンの流体現象を主とした可視化・現象メカニズム解明。
PERSON
推薦
SL
森合 秀樹
(もりあい ひでき)
金沢工業大学
航空システム工学科 教授

京都大学大学院工学系研究科機械理工学専攻博士後期課程修了。三菱重工(株)に30年以上勤務し、H2・H2Aロケット用のロケットエンジンや、民間・防衛用航空エンジンなどの開発設計・研究に従事。2021年金沢工業大学教授。専門は航空宇宙エンジンの流体現象を主とした可視化・現象メカニズム解明。
「KIT Book Review」では、金沢工業大学ライブラリーセンターのサブジェクト・ライブラリアン(SL)が本を推薦します。SLは、ライブラリーセンターにおいて膨大な専門情報の内容や質を選択判断し、その収集や利用を立案実行する中枢機能です。本学の教授陣によって構成されており、自己の専門分野はもちろん、関連分野まで質の高い最新情報を把握しています。

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