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IoT やテクノロジーの“民主化”をはかり
ビジネスにおいてさらなる活用促進を
IoT やテクノロジーの“民主化”をはかり
ビジネスにおいてさらなる活用促進を
2022.11.2

IoT(Internet of Things、モノのインターネット)をもっと安価で快適に、安全に使えれば、誰もがやりたいビジネスに、より容易に挑戦できるのではないか――その発想から2015年、携帯電話の通信網を用いた従量課金型IoT向け無線通信回線サービス「SORACOM Air(ソラコムエアー)」の提供を掲げて生まれた株式会社ソラコム。「SORACOM Air」のユーザーコンソール(Web上の管理画面)や API(Application Programming Interface) を使うことで、各種設定の変更、通信量の監視など、IoTデバイスの一元管理をできるようにした、提供開始当時としては斬新なサービスだった。立ち上げメンバーの一人である片山氏に創業時のエピソードや、わずか6年半で契約回線数400万超に至ったこれまでのストーリー、そして片山氏自身のものづくりに対する想いを伺った。
PERSON
片山 暁雄 (かたやま あきお)
株式会社ソラコム
SVP of Engineering
上級執行役員
エンジニアリング担当

1977年大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部金属工学科卒。金属素材の専攻で最初の就職先は製造業だったが、その後ソフトウェアに可能性を感じ、ソフトウエアエンジニアに転身。Javaを軸に金融系SI、AWS(Amazon Web Service)を経てソラコム立ち上げに参加。ソラコムでは、顧客管理などのビジネスシステムや、運用(OpsDev)、顧客対応も自ら担当しながら、シアトル在住のCTO安川健太氏の右腕となり、日本本社からグローバルのエンジニア組織マネジメントに従事する。
PERSON
片山 暁雄 (かたやま あきお)
株式会社ソラコム
SVP of Engineering
上級執行役員
エンジニアリング担当

1977年大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部金属工学科卒。金属素材の専攻で最初の就職先は製造業だったが、その後ソフトウェアに可能性を感じ、ソフトウエアエンジニアに転身。Javaを軸に金融系SI、AWS(Amazon Web Service)を経てソラコム立ち上げに参加。ソラコムでは、顧客管理などのビジネスシステムや、運用(OpsDev)、顧客対応も自ら担当しながら、シアトル在住のCTO安川健太氏の右腕となり、日本本社からグローバルのエンジニア組織マネジメントに従事する。
クラウドをビジネスで活用しやすく
IoT通信の構想で創業
 ソラコムを立ち上げる前は、現社長の玉川憲も共同創業者の安川健太も、私も含めて、AWS(Amazon Web Services、Amazonが展開するクラウドコンピューティングサービス)の運営会社にいました。AWSのデータセンターが2011年に東京で稼働開始してからは、クラウドを使ってビジネスを展開するお客様が増えていました。しかし使い勝手がよく、低価格で、安全にビジネスで使える通信サービスがないとの声も多く聞きました。

 当時だいぶ普及していたスマートフォンも個人向けのプランがメインで、いわゆるIoT、モノを接続するための適切な通信サービスがありませんでした。IoTは個人の携帯通信ほどデータ量を必要としませんが、管理するデバイス数が多くなります。外部のプログラムとやり取りするソフトウェアの窓口であるAPI(Application Programming Interface)で管理するのがよさそうでしたが、そんなサービスは当時なかったのです。

 そこで、玉川と安川が「低価格の従量課金で使えるIoT通信サービスをクラウド上で提供する」というアイディアを思いつきました。Amazonでは、サービスを作る前にプレスリリースを作成する習慣があり、その習慣にならって、思いついた勢いでプレスリリースを書き上げました。これが創業のきっかけとなり、安川がプロトタイプを作りました。私も当時、玉川と同じチームに所属し、これはおもしろそうな新しいビジネスだと感じ、ソラコムの創業当初からジョインしました。
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 AWSを活用してビジネスが成功した事例をたくさん見てきました。今では当たり前にその名を聞くNetflixやUberもその一例です。昔なら大規模なビジネスを始めるには、データセンターを借りて、サーバーをたくさん用意しなければなりませんでした。アイディアがあっても一定規模の資本が必要で起業をためらった時代から、クラウドの普及でITがぐっと身近になり、新規ビジネスの誕生がもっと伸びてもいいはずでした。しかし、日本ではクラウドを活用した大規模なビジネスはなかなか出てこなかったのです。クラウドを活用すれば、日本にいながら、世界展開もしやすくなります。「グローバルにサービスを提供できる環境を提供したい」というのが当初からの狙いでした。

 サービスのコアとなるプログラム部分の実装は安川が担当したものの、単純に通信だけではビジネスは成立せず、お客様が使うWebコンソールも、バックヤードで処理するAPIも、課金の仕組みも必要です。すべてをゼロから着手し、2015年の会社設立から同年9月のサービス発表まで、ものすごいスピード感で、みんながやれることをやっていました。開発者は私を含めて5~6名。私は通信の周辺部分、課金や決済、お客様が使うAPIの作成に携わり、他の者もいろんな仕事をそれぞれが兼任しながら進めていました。

 お客様が自社の都合で回線をコントロールでき、低価格の従量課金制のシステムであれば、お客様にとってのメリットも大きいだろうと考えました。回線に異常があればお客様自身でストップでき、SIMを名前で検索・管理できて、1日10円から使用可能。そういったWebコンソールと通信をセットで提供している会社はなく、新しいビジネスに不安はあったものの、クラウドのパワーもあり、このサービスはきっとうまくいくという確信がありました。製品発表前のベータ版で30社ほどからフィードバックを得て、2015年9月、携帯電話の通信網を用いた従量課金型IoT向け無線通信回線サービス「SORACOM Air」の発表に至りました。
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IoT向けのデータ通信 SIM “IoT SIM” を提供する「SORACOM Air for セルラー」
 ありがたいことに日経BP社の「ITpro EXPO AWARD」で大賞をいただきました。SIMカード1枚、デバイス1体から、APIで管理でき、特別な契約書も必要なく、オンラインで契約できる“世界初の通信サービス”だと、先進性を評価していただきました。クラウドサービスを使う気軽さでIoTを活用したビジネスを展開できる。私自身は通信を仮想環境で動かすことの価値を当時そこまで理解していませんでしたが、通信をよく知る方に「みんながやりたいと思っていたことが本当に実現できてすごい」と言っていただき、方向性として間違っていなかったと実感することができました。
顧客の声を反映してサービス充実
世界最大規模の100万超の採用も
 お客様と話すうちに「通信だけじゃなく、もう少し先の機能があれば…」との声をいただき、SORACOMのプラットフォームを充実させていきました。実現したいビジネスを支えるため、「どの通信を使うか、どういうサービスを使うか」を検討する負担はなるべく減らしたいというのがお客様の本音です。その声を我々のサービスが吸収することで、Win-Winの関係性が得られると、SORACOM Airをリリースしてから感じることが増えました。

 当社の有意性は、仮想環境の技術よりも、クラウド環境を活かしてお客様の要望を実際のサービスに即反映する、スピード感や柔軟性です。たとえばお客様のデバイスが増えても我々がリソースを増やすことでサービスを補完できます。ソフトウェアとSIMの両方を自作しているので、SIM認証でデバイスを認証する機能も、お客様の要望に合わせてすぐに実用化しました。
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「企業内の通信をあたかも専用線でつなぐようなプライベート環境にしたい」「工場の情報を無線でクラウドに上げたい」「デバイスの認証情報が盗まれないよう、クラウド側に情報を寄せたい」といった要望には、ソラコムのクラウドの中だけで通信をつなぐ――つまり、インターネットを介さず、クラウドに入れたデータをそのままクラウドにある顧客のプライベート領域に届け、高度なセキュリティを担保。「デバイス情報を暗号化して、別の自社サーバーに飛ばしたい」という希望があっても、デバイスで暗号化するとコストが高く、CPU消費も激しく、暗号化するための仕組みも必要になります。そこをSORACOM Airに肩代わりさせるために、クラウドで暗号化した後に顧客のサーバーに届けるデータ転送支援アプリケーション「SORACOM Beam」を開発しました。

 このように、「どこかの会社にあって当社にないから」と生まれたサービスは一つもなく、あくまでお客様の声から必要なものを順次サービス化していきました。現在、19のサービスを提供していますが、フルスペックで使うというより、お客様に必要なサービスを選んでいただいています。コアの通信機能とクラウド、お客様の声が組み合わさり、すごいスピードで新たなサービスが生まれる点はまさにスタートアップならではですね。

 採用いただいたお客様の事例では、電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを展開するLuupの「LUUP(ループ)」や、GPSが入った子ども見守り端末などを提供するミクシィの「みてねみまもりGPS」で、キックボードやデバイスの位置情報管理に活用され、コストを抑えて台数の多いデバイスを一括管理することに貢献しています。
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「みてねみまもりGPS」の位置情報管理に活用されている
 また、ソースネクストが開発し、現在は分社化したポケトークが運営するAI通訳機「ポケトーク」は、海外でも設定そのままで82の言語に対応できるようになりました。バージョンが上がるたびに翻訳精度を上げ、レスポンスも早くなり、想像以上の進化を遂げています。ニチガスではリモートでガスメーターの検針や開栓を行い、ガスボンベの残量を定期的にアップロードして、交換のタイミングを把握するシステムを構築。約1年半で100万超の回線が採用され、世界で見ても最大規模です。集めたデータを街づくりなどのために第三者にも提供して活用したいと模索されています。
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82の言語に対応できるようになった翻訳機「ポケトークS」
 宮崎県でブランド豚「まるみ豚」を育てる協同ファームでは、これまで従業員による巡回によって行っていた設備の故障の点検・検知をIoTに任せ、豚との触れあいに人員を割くことができるようにしました。人が本来の仕事に専念でき、ブランドの価値も上がる、IoT活用のまさに王道のアプローチです。第1次産業は特に少しの改善でかなり効果が出ることが多いと言えます。害獣の狩猟分野では、山の中に仕掛けた罠に接点ボタンを付けて、全ての罠を点検する必要がなくなりました。ピーマン農家ではビニールハウスの燃料に使う暖房用ペレットが不足した箇所だけお知らせを出してペレットを足すようになり、いずれもIoTによる生産性向上が労働環境の改善にも寄与している喜ばしい事例です。
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協同ファームの各豚舎にAIカメラ(左上)や水量計(左下)を、飼料タンクにはセンサー(右)を設置し、SORACOMのセルラー通信やクラウド連携サービス「SORACOM Funnel」などを活用して設備状況をリアルタイムで可視化した
 自治体でもIoT化は進んでいて、熊本県南部の人吉市の球磨川にかかる水の手橋に導入された「人吉市ライティング防災アラートシステム」では、IoTを活用して川に設置された水位センサーのデータを常時収集・可視化し、川の水位に合わせて橋の手すりなどにあるライトの色を自動で変化させ、市内の方々に避難の必要性を伝えるのに活用されています。国内でも珍しい、IoTを活用した水位計測と橋のライトアップによるアラートシステムです。平時はライトが電球色のようなあたたかな色味をしており、観光客が楽しめる景観演出となっていますが、緊急時は氾濫注意水位~避難判断水位で白色、氾濫危険水位で赤色、計画高水位で赤点滅と変化します。現在このシステムの効果検証をしている段階ですが、市民の方からは「街が明るくなって、夜中でも安心して通行できるようになった」と、防犯上の観点からも好意的な声をいただいている事例です。
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「人吉市ライティング防災アラートシステム」が導入された熊本県人吉市の水の手橋。夜間にライトアップされ、水位に合わせてライトの色が変化する
 ほかにも、たとえば除雪車の位置情報の把握にも活用されています。SIMを止めれば料金不要なので、冬だけ契約し、除雪車に付けたGPSでいつ自宅前を通過したかをすぐ確認できます。同様に路線バスのロケーションなど、可視化した情報を市民に提供するには非常に相性が良いと言えます。

 IoTにはハードウェアやソフトウェア、通信、クラウドの知識も必要とされるため、「IoTは総合格闘技」だとよく言われます。ビジネスでのIoT活用は、その敷居を下げることが必要です。初期費用や運用コストの高さ、使い始めて慣れるまでのテクニカルな手間や時間――敷居を下げることを当社では「IoTの民主化」や「テクノロジーの民主化」と表現します。

 今はスマホを持っている前提でいろいろなことが進みます。これも民主化の象徴の一つです。IoTは少しずつ生活に浸透していますが、みんながより意識せず、たとえば買い物をしたらリモートで管理され、問題があればリモートで修正し、利用履歴を記録・確認できることが当たり前になれば、それを前提とした新しいビジネスができます。IoTが十分に浸透して、IoTの単語を聞かなくなった時に、民主化に到達したと言えるのではないでしょうか。
ビジネスとともに会社も成長
アイディアはまずトライして育てて
 カメラを使った取り組みも進化しています。最近発表した「ソラカメ」にはマイコンを入れてアルゴリズムを動かし、通信デバイスも入っているので、電源に差せばすぐに通信を始められます。ナイトビジョン付きのカメラが1台3,500~5,000円と安価で利用できます。人数の検知にもカウントにも使え、幅広い用途が期待できます。ITではカンブリア紀の話がよく出てきますが、生き物は目を持つことで急激に変化した話があり、「まさにIoTの目がようやく手に入った」と社内でも話していました。カメラの普及でIoTビジネスはさらに伸びしろが期待されるでしょう。
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クラウドカメラサービス「ソラカメ」(左上)などのソラコムのIoTデバイスの数々
 私は材料工学出身で、大学を卒業後、自動車の部品会社に入り、ハンドルの生産技術を担当していました。樹脂の温度や射出速度を調整し、条件を出して、量産の部署へ渡す仕事です。あるとき、ものづくりは樹脂成型もITも同じだと感じて、ソフトウェア分野に転身しました。設計して、実装して、問題がなくなるまでテストを繰り返し、品質を担保できたらリリースする、そのプロセスを製造現場で学べたことが今に生きています。「これができるようになった、改善した」というお客様の声や採用事例を聞くのが何よりの励みです。

 今は120~130人と、創業当初より、チームも大きくなってきました。当初は自分が作ったものをお客様が直に使っていただいた実感が喜びでしたが、今は私がやっていたプロセスを各部署がものすごい勢いで実現し、会社としての成長やスケールを感じられる場面にもチームプレーの醍醐味を感じます。やり続ける中で新たな技術も出てきて、今は商用化された5Gをどう使うか議論している段階です。衛星も注目され、クラウドではAIが実用段階に入りつつあります。自動車のEV化が進めば、動くスマホとして通信がつながっていることが前提になり、さまざまなアイディアが実装されていくでしょう。現在、160以上の国・地域で通信を使えるソラコムに聞けば、新しくて使えるサービスを提供してもらえる――そんなイメージを国内外で持っていただけるよう、当面は地道に活動を続けていきたいです。

 IoTはまだ黎明期で、チャンスはたくさんあります。興味があればぜひいろいろトライアルしてほしいです。当社のお客様がIoTをトライアルされる場合も、いきなり最初からやりたいことの全部をやらず、まずは効果の高そうな一部分をスモールステップで始めます。初めは「面倒そうだな」と抵抗があっても、試しに実証実験を始めると、現場からどんどんアイディアが出る「カイゼン文化」は日本の現場のよさではないかと感じます。誰かが既にやっているから、他の会社がやっているからとあまり考えすぎず、効果があると思った小さなことからビジネスの芽を育て、なるべく早く失敗して、それを次のステップで活かしていくことをおすすめします。
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