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世界のメディア・エンタメ業界を
担える人材を虎ノ門で育成する
世界のメディア・エンタメ業界を
担える人材を虎ノ門で育成する
2023.12.11

インターネットの普及によって、メディアエンターテインメント業界は100年に一度ともいうべき転換期を迎えている。これまでのメディア技術の常識が根本から塗り替えられつつあり、いまや“双方通行性”のある通信技術のノウハウなくしてビジネスの成長は望めない時代になったと言っても過言ではない。そんな世界各国のメディアエンターテインメントにおけるコンテンツとテクノロジーに関する融合について研究し、人材育成や啓蒙活動を行うために金沢工業大学が虎ノ門大学院に設立したのが、「コンテンツ&テクノロジー(C&T)融合研究所」だ。所長を務める北谷賢司教授に同研究所の教育について、そして日本と世界のメディアとエンターテインメントについて聞いた。
PERSON
金沢工業大学虎ノ門大学院
イノベーションマネジメント研究科 教授

北谷 賢司 (きたたに けんじ)
博士(電気通信法、メディア・エンターテインメント産業経営)

ワシントン州立大学コミュニケーション学部放送学科卒。ウイスコンシン大学コミュニケーション大学院修士課程修了。ウイスコンシン大学コミュニケーション大学院博士課程修了。インディアナ大学テレコミュニケーション経営研究所副所長、日本テレビ放送網顧問、TBSメディア総研社長、東京ドーム取締役兼米国法人社長。ソニー(株)執行役員兼米国本社エグゼクティブ・バイス・プレジデント、(株)ぴあ 取締役、(株)ローソン 顧問、ワシントン州立大学コミュニケーション学部メディア・マネジメント学栄誉教授を歴任後、エイベックス国際ホールディングス社長に就任。米国エンターテインメント大手企業、AEGのアジア担当EVPを経て、2023年10月にDAZN Japan チェアマンに就任。専門はメディア・コミュニケーション法およびメディア・エンターテインメント経営であり、学術とビジネスの両面において豊富な経験を有する。
PERSON
北谷 賢司
(きたたに けんじ) 博士(電気通信法、メ
ディア・エンターテインメント産業経営)

金沢工業大学虎ノ門大学院
イノベーションマネジメント
研究科 教授

ワシントン州立大学コミュニケーション学部放送学科卒。ウイスコンシン大学コミュニケーション大学院修士課程修了。ウイスコンシン大学コミュニケーション大学院博士課程修了。インディアナ大学テレコミュニケーション経営研究所副所長、日本テレビ放送網顧問、TBSメディア総研社長、東京ドーム取締役兼米国法人社長。ソニー(株)執行役員兼米国本社エグゼクティブ・バイス・プレジデント、(株)ぴあ 取締役、(株)ローソン 顧問、ワシントン州立大学コミュニケーション学部メディア・マネジメント学栄誉教授を歴任後、エイベックス国際ホールディングス社長に就任。米国エンターテインメント大手企業、AEGのアジア担当EVPを経て、2023年10月にDAZN Japan チェアマンに就任。専門はメディア・コミュニケーション法およびメディア・エンターテインメント経営であり、学術とビジネスの両面において豊富な経験を有する。
ガラパゴス化が進んで立ち遅れる
日本のコンテンツ産業
 14年前の研究所設立時から所長を務める北谷教授は、アメリカにおけるメディア・エンターテインメント産業経営領域の博士号を日本人で初めて取得した人物。国内外の様々なメディア・エンターテインメント企業の要職を歴任すると同時に、博士号を持つ伝説のプロモーター“ドクターK”として、U2、マイケル・ジャクソン、マドンナといったビッグネームの日本招聘を手がけたことでも知られる。
北谷教授の研究室には、マイケル・ジャクソンと撮った写真も飾られている
 2020年のアカデミー賞で韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞に輝いたのは記憶に新しいが、近年は映画に限らず音楽やドラマといったエンターテインメントコンテンツにおいて、日本は韓国に大きく水を開けられている状況だ。こうした“差”はなぜ生まれたのか、その背景について北谷教授は次のように話す。

「日本のコンテンツ産業はガラパゴス化していて、世界のスタンダードから大きく遅れています。日本でもかつては欧米と同じ構図や撮影手法で映画を撮っていたので、溝口健二、小津安二郎、初期の黒澤明などが世界的に評価される作品を作ることができたわけです。しかし、テレビが普及して国内マーケットがどんどん大きくなっていった日本では、番組を国内向けに作ってさえいれば利益が出るという状況もあって、各キー局が毎日のゴールデンタイムに放送するドラマを毎年何本も作るようになっていきました。ただ、時間と人材に限りがあるなかで数多くのドラマを作るために、現場ではひとつのアクションを複数のカメラで撮って後から編集する“マルチカメラ”で撮り始め、さらに“ズーム”や“ジャンプカット”と呼ばれる撮影手法を多用するなど、欧米では映像製作のルールブレイク(掟破り)とされるやり方を、みんなが平然と使うようになっていったのです。こんな状況が何十年も続いてきた結果、いまの日本のドラマを海外の関係者に見せると“これは高校生の作品か?”と聞かれるレベルになってしまいました。また、日本の映画製作に多い『製作委員会方式』というやり方にも問題があります。これはひとつの作品を作るのにテレビ局をはじめとする複数の企業が出資するというものですが、すべての出資企業の意向を反映しなければならず、オリジナル脚本などクリエイティビティの高い作品を作ることを難しくしている一因になっています。
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 その点、国内市場が小さかった韓国では80年代からグローバルな展開を考えており、欧米化された方法論で映画を撮るという国家戦略のもとで人材を育成してきました。欧米から有能なディレクターを招致して国内の学生に教え、優秀な学生を国の奨学金で留学させて本場の映像製作をグローバルな言語を使って学ばせたのです。現在、映画やドラマ製作でコアとなっているのがそういう人たちで、映画『パラサイト』はストーリーや登場人物こそ韓国ですが、記号的に分析しても欧米の作品とまったく遜色がありません」
放送業界の世界的権威も客員教授に
学生にはキャリアやゼネコン社員も
 このようにたとえストーリーラインが奇抜でいいものであっても、撮影手法の問題などからそのままではなかなか世界に通用しない日本の映画だが、なかにはその原作権だけを買いたいという話になることもあるという。しかし、ここでもやはり日本は立ち遅れていると北谷教授は指摘する。

「日本では契約に関する権利書類も非常に曖昧で、知財に対する業界の意識がとても遅れています。原作権を買おうにも、権利関係が明確になっていないため訴訟リスクを恐れて手を引く外国企業も多いのです。われわれC&T融合研究所では、こうした知財をはじめ映画、放送、演劇、音楽興行、音楽産業、著作権、IR、オンラインゲーミング、eスポーツ、さらにはNetflixやAmazonプライムといったブロードバンド系のコンテンツなど、メディア産業全般の幅広い専門分野について学ぶことができます。そのために国内外の専門家に研究所の客員教授になっていただき、MBAで教えていただくというかつてなかった建て付けを取り入れました」

 そんな客員教授の一人が国際エミー賞財団会長のフレッド・コーヘン氏だ。エミー賞はアカデミー賞と並ぶアメリカのエンターテインメント界最高峰の賞で、コーヘン氏は放送業界のピラミッドの頂点にいる存在でもある。そんな人から最新の業界の話を直接聞ける機会というのは、そうそうあるものではない。これもすべて北谷教授の人的ネットワークがあればこそといえる。

「現在、客員教授は国内外の方あわせて20名ほどです。C&T融合研究所は規模こそそれほど大きくありませんが、『ここでなければ学べない学科を作りたい』という金沢工業大学の理事会の意向で設立されましたから、いまのところその役割は果たせていると思います」

 では、実際にどんな人たちがこの研究所で学んでいるのだろうか。
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「メディア・エンタメ業界について学びたくて通ってくる学生と、MBAを取得してキャリアアップにつなげたいという学生に分かれます。ただし、社会人大学院の特性として、ここでは高卒の人でもそれなりの社会人経験があれば審査をして入学を認めています。四年制大学は出ていないものの、メディア・エンタメ業界には卓越した能力で活躍しているという人もけっこういらっしゃるので、むしろそういう人たちにノウハウを学んで見識を深めてもらうことで、さらなる飛躍を遂げて業界で活躍していただければ、私たちとしてもそれが大きなやりがいになります」

 学生の年齢は20代から60代までと幅広く、職業も総務省や文化庁などのキャリア、テレビの在京民放キー局の社員、上場企業の執行役員クラスなど多士済々。最近の傾向として特徴的なのが、ゼネコンや準ゼネコンといった一見エンタメには無関係に思える業種の人が増えていることだという。

「2025年までに全国に20のスタジアム・アリーナを整備するという政府の方針もあって、その設計や建設にはエンタメの視点が不可欠になっています。また、すでに稼働している既存のスタジアムも将来的に自活するための活用方法を考えるには、マーケティングや改修計画によって収益事業化する必要があるため、それを学びにくるゼネコン社員も増えつつあります」
エンタメ業界における今後のカギは
技術を“どう使いこなすか”
 エンターテインメント業界の裾野は一昔前には想像すらしなかったような急速な広がりを見せており、業界は100年に一度の転換期に直面しているとも言われる。

「これまでコミュニケーションは一方通行で行われていましたが、インターネットの登場で双方通行に変わりました。“ソーシャルネットワーク”というのは、双方通行性があるからそう呼ぶわけで、これには技術の進歩が非常に大きな影響を与えています。理工系の大学を出てメーカーで活躍している人は、これまでは細分化された専門領域を勉強していればキャリアを築くことができました。しかし、情報技術の進歩のおかげでこうした領域が省略化され、技術の世界と会社の外の世界が常に変化する時代になっています。そうなると自分自身もアップデートしていくしかないので、“ソフトウェアの領域”に関するノウハウを持つことがとても重要になっています。プログラムを書けるか? その分析ができるか? というノウハウなしには、もはやキャリアアップは望めない時代がすぐそこまできているのです」

 日々、進化を続けるエンターテインメントのテクノロジーには、次から次へと新しい技術が登場している。そんななかで北谷教授がいま最も注目している最先端技術が、2023年9月にアメリカ・ラスベガスにオープンした新アリーナ「Sphere(スフィア)」だという。
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現地時間9月29日にオープンした「Sphere(スフィア)」。ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン社(MSG)が手掛けており、外側は天井まですべてLEDパネルに覆われている(Photo by Tayfun Coskun/Anadolu Agency via Getty Images)
「スフィアは2万人を収容する球形の大型アリーナで、世界初となる最先端4D技術が注ぎ込まれています。まず球形の内外両側の壁面が最新の高精細LEDパネルでほぼ完全に覆われていて、アリーナの内側だけでなく外壁も演出活用できる超斬新な建造物です。内壁のスクリーンと舞台を一体化させれば実際にセットを組む必要もなく、バーチャルなセットでこれまでなかったようなイマーシブ(没入型)な演出が可能です。音響は15万7000個のウルトラ・ダイレクショナル・スピーカー(超指行性スピーカー)とビーム・フォーミング技術によって、個々の席ごとに計算された最高の音質と音量が届けられるほか、インフラサウンド・ハプティック(触覚・超低周波音)という音を深みのある振動として体感できるシステムも配備されるそうです。

 こうした事例からも明らかなのは、製作のメソッドが変わることで見せる方法もどんどん変わってきているという事実です。技術をどう使いこなしてメッセージを伝えるかという部分のノウハウが、これからは必要になってくるのです。ただし、ひとつ注意しなければならないのが、すべての技術が必ずしもメディアエンターテインメントの産業を凌駕するわけではないということです。たとえば、ジェームス・キャメロン監督は3D技術で映画『アバター』を作りましたが、あの技術は一過性のものにすぎず、いまではほとんど話題に上ることもありません。しかし、最新のレーザーテクノロジーやLEDテクノロジーは明らかにこれまで存在していたテクノロジーよりも機能的に優れています。この技術を使いこなせれば、いままで存在しなかった新しいエンターテインメント産業を作ることも可能だと思います。そのためには次のステップとして、“技術”を“テクニック”としてどう使いこなせるかが鍵になります。
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 たとえばホログラムという技術はその映像を作るための原理はわかっているものの、どのようなプロジェクターやスクリーンを使い、それをどう組み合わせてどう撮ればいいのかというノウハウはまだわかっていません。つまり、そこを先にモノにした人たちが先駆者になっていくのです。技術を理解する力とそれをどう組み合わせるかという応用力、さらにクリエイティブに使いこなすことができるかどうかということが、最も大きなポイントになるわけです。自動車を作るのであれば素晴らしい性能のものを作れば他社に勝てるわけですが、コンテンツの場合は演出力やどのように感動を生むかといった部分が非常に重要になってくるので、そこが難しいところですね」

 いまや私たちの日常生活からインターネット上のサービスを切り離すことはできない。24時間、どんな場所にいても、時空の制約を超えてあらゆるコンテンツにアクセス可能になることで、私たちは日常生活とエンターテインメントの間を自由自在に行き来する環境が実現するだろう。そんな次の時代のメディア&エンターテインメントビジネスの世界を担う技術者やクリエーターが、この研究所から巣立っていくことに期待したい。
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C&T融合研究所は、東京・虎ノ門キャンパスにあります。ホームページはこちら

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