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世界史の教科書とは異なる観点から
今を一望できる“世界のコンテクスト”
世界史の教科書とは異なる観点から
今を一望できる“世界のコンテクスト”
2024.5.28

『ビジネスエリートの必須教養  
「世界の民族」超入門』

山中俊之/著
ダイヤモンド社 定価1,760円(税込)
推薦
SL
狩野 剛 (かのう つよし)
金沢工業大学
経営情報学科 准教授
 将来の日本を担う人材像を語るときに「グローバル人材」という言葉を目にする機会が増えてきました。これまで私はバックパッカー、駐在、留学、出張などで40カ国程度を訪れ、どちらかというとグローバルな生き方をしてきたのかなと思っています。その中で感じてきたことの一つとして、世界で起きている社会問題の多くは文化や歴史に紐づいていることが多く、それを理解し共感することは、語学力よりよほど重要だということです。

 今回紹介する書籍は、世界の文化や歴史を「民族」という切り口で解説しています。私が本書を読んで感じた主なメッセージは、世界で起きている様々な問題は民族の問題に帰結することが多く、「世界のコンテクスト」を読み取れる人材になるために、世界の民族について様々な角度から教養として理解しよう、といったものです。そして内容もそのような形で各地域についての紹介や、人種差別や難民・移民問題といったトピックを切り口に解説されています。

 ちなみに、本書のキーワードは「民族」ですが、著者は元外交官の大学教員ということもあり、民族学者のように分類ごとに科学的に論じているわけではありません。そのような分類ではなく、「現在の世界の姿がこうなっているのは、こういう民族的な背景があるから」といった形で、今の世界の姿とその基礎になる民族や歴史についてのストーリーが書かれています。主観的な要素として著者の体験談も多く紹介されており、そこもリアリティを高める要素になっています。

 また、カバーしている範囲も非常に広く、たとえば、とある章ではイギリスのブレグジット(EU離脱)と民族の関係性や、南アジアの宗教対立による分離独立などについての経緯を民族性の観点から紹介しています。一方、別の章では日本の民族問題としてアイヌや在日コリアン、そしてそこから「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)」などのアメリカの黒人差別問題との関係や移民政策の差などが一つの流れの中で紹介されているなど、多様な視点からストーリーが紡がれています。

 個人的にオススメの読者層は、どこかしらの国に実際に訪問・滞在したことがあり、「なんでこの国はこんな仕組みになっているのだろう?」「なぜ民族の差がこんなに深刻な問題に……」といった問題意識を持ったことがある人です。おそらくその方達は、自分が問題意識を持った国・民族についてある程度勉強しているはずで、その奥深さを感じたことがある人だと思います。その経験の背景にあるものを本書で再確認・補強できるということに加えて、他の地域についての知識・理解を広げることで、まさに「教養」として世界の今を一望する書籍として活用できるのではと思います。私も、これまであまり勉強してこなかった地域などについても歴史背景を知ることができ、知識の幅が広がったと思います。今後、新しい地域に出張に行く際などは、その地域の章を読み直してから行きたいなと思っています。

 また、私はこの本の一番魅力的な点は、歴史と現在を、民族を通してつないでいる点だと思います。それが一般の世界史関連書籍との最大の差異です。というのも、実は大人になってから私は何度も世界史の本を読もうとして挫折してきました。自分はグローバルな物事が好きなのに、どうして世界史にハマれないんだろう……と情けない思いをしてきたのですが、その理由の一つが本書を読んでわかった気がします。それは、過去と現在を結ぶ線の有無です。

 世界史の本は、過去の事実を知るという点では非常に体系的なのですが、現在とは切り離されて記載されているので、あまりリアリティを感じませんでした。一方、本書は今の世界の価値観や考え方の基礎となるものを地域・民族という切り口でまとめています。そこにはもちろん世界史の要素も多く含まれているのですが、私としては世界史の教科書では味わえないリアリティを持って読むことができました。

 私の文章力の拙さもあり、具体的な書籍レビューというよりは、同じようなことを何度も書いてしまったような気がしますが、読み物として、または自分が知らなかった世界のコンテクストを教養として広げる参考書として、興味を持った方はぜひお手に取ってみてください。
PERSON
推薦
SL
金沢工業大学
経営情報学科 准教授

狩野 剛 (かのう つよし) 博士(情報科学)
横浜国立大学工学部電子情報工学科卒。横浜国立大学大学院環境情報学府情報メディア環境学専攻修了。(株)野村総合研究所証券システム本部アプリケーションエンジニア、独立行政法人国際協力機構(JICA)本部調査役、JICAバングラデシュ事務所駐在員、ルワンダICT商工会議所客員研究員、世界銀行EduTechコンサルタントを経て、ミシガン大学情報科学博士課程修了の後、2022年金沢工業大学准教授。一般社団法人ICT for Development代表理事、神戸情報大学院大学客員教授も務める。専門は自治体DX、デジタル技術と国際開発、ICT人材育成、イノベーション、国際協力、経済開発、ICT4D。
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SL
狩野 剛
(かのう つよし)
金沢工業大学
経営情報学科 准教授

横浜国立大学工学部電子情報工学科卒。横浜国立大学大学院環境情報学府情報メディア環境学専攻修了。(株)野村総合研究所証券システム本部アプリケーションエンジニア、独立行政法人国際協力機構(JICA)本部調査役、JICAバングラデシュ事務所駐在員、ルワンダICT商工会議所客員研究員、世界銀行EduTechコンサルタントを経て、ミシガン大学情報科学博士課程修了の後、2022年金沢工業大学准教授。一般社団法人ICT for Development代表理事、神戸情報大学院大学客員教授も務める。専門は自治体DX、デジタル技術と国際開発、ICT人材育成、イノベーション、国際協力、経済開発、ICT4D。
「KIT Book Review」では、金沢工業大学ライブラリーセンターのサブジェクト・ライブラリアン(SL)が本を推薦します。SLは、ライブラリーセンターにおいて膨大な専門情報の内容や質を選択判断し、その収集や利用を立案実行する中枢機能です。本学の教授陣によって構成されており、自己の専門分野はもちろん、関連分野まで質の高い最新情報を把握しています。

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