VRに関するトピックを網羅し
今後の可能性を探る参考になる書VRに関するトピックを網羅し
今後の可能性を探る参考になる書
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今後の可能性を探る参考になる書
2025.6.9
『VRは脳をどう変えるか?
仮想現実の心理学』
ジェレミー・ベイレンソン/著
倉田幸信/訳
文藝春秋 定価2,420円(税込)
仮想現実の心理学』
ジェレミー・ベイレンソン/著
倉田幸信/訳
文藝春秋 定価2,420円(税込)
推薦
SL
SL
中沢 憲二
(なかざわ けんじ)
金沢工業大学 メディア情報学部
メディア情報学科 教授
金沢工業大学 メディア情報学部
メディア情報学科 教授

スタンフォード大学でVirtual Human Interaction Labを設立したジェレミー・ベイレンソン教授による著書の翻訳本です。この本はニューヨーク・タイムズやネイチャー等多くの紙面で紹介され、ブラスコヴィッチ教授と共著で出版された "Infinite Reality"に続き、ご自身にとってAmazonで二度目のベストセラーとなった書でもあります。英語のタイトル名は "Experience on Demand: What Virtual Reality Is, How It Works, and What It Can Do"。「オンデマンドでの経験:VRとは何か、VRはどのように作用するのか、VRに何ができるのか」と直訳するよりは、「VRは脳をどう変えるか?仮想現実の心理学」とした方が興味をそそられます。
序章の「なぜフェイスブックはVRに賭けたのか?」では当時のFacebook社、現在のMeta社のマーク・ザッカーバーグ氏が研究所を訪れた際の驚きぶりが紹介されています。ヘッドマウントディスプレイを装着し仮想現実の高所にある狭い足場を歩き、「確かにこれはかなり怖いね」とその場にいるかのような臨場感を体験されたようです。さらに、自身を投影するアバターに三本目の腕を備えたときの体験ではあれこれ動かす術を学んだり、またバーチャル・ミラーに映る老人の身体に移し替えらえた自身の姿を見たり、自身がサメになって珊瑚礁を泳ぎ回ったりする体験もされたそうです。訪問の数週間後に、ヘッドマウントディスプレイのメーカーであるOculus社を買収し、何か事をなすときの決断の速さにも見習うべきところがあります。
第1章の「一流はバーチャル空間で練習する」では、NFL(全米フットボール連盟)での練習への活用事例が紹介されます。ヘッドマウントディスプレイを装着することによって360度カメラで撮影した練習風景を再現でき、選手はその場にいるかのように作戦を反復的に復習できます。
第2章の「その没入感は脳を変える」では、VR研究の先駆者でもあるメル・スレイター教授によるアバターへの電気ショックによる実験が紹介されます。実際の人間ではなく仮想と分かっていても、アバターが苦しむ様子をみると被験者は苦痛を覚える。脳は現実として扱っているのです。“VRの父”と呼ばれるジャロン・ラニアー氏の「一番素晴らしいVR体験はヘッドマウントディスプレイを外した瞬間に訪れる」との言葉の紹介もあり、VRでは異次元の体験はしやすいが、やはり現実世界の生活が中心にならなければならないと示唆されます。
第3章の「人類は初めて新たな身体を手に入れる」では、ゴム製の義手と隠された自分の手を同期して刺激すると義手を自分の手と思い込んでしまう「ラバーハンズ効果」と、その原理にもとづくバーチャル・ミラーが紹介されます。VR空間内の鏡に写るアバターが自分と思えてくる、また、アバターの外見に合わせてふるまってしまうという、ベイレンソン教授らが提唱したプロテウス効果にも触れられます。
第4章の「消費活動の中心は仮想世界へ」では気候変動による危険性を体験する試みが紹介されます。イタリアのイスキア島の噴出孔から噴き出す二酸化炭素が海中に溶け込み海洋を酸性化させた際の被害を視覚化して見ることができるコンテンツです。
第5章の「2000人のPTSD患者を救ったVRソフト」では、9.11テロ事件後PTSDに苦しんだ被害者らに対してVRを使い当時の記憶を呼び起こす暴露療法が紹介され、第6章の「医療の現場が注目する”痛みからの解放”」では、患者が受ける激痛から気をそらす手段として拡張された手足をもつアバター操作による療法も紹介されます。
第7章の「アバターは人間関係をいかに変えるか?」では、仮想空間での人の交流を実現するソーシャルVRがキラーアプリになると予測しています。言語情報と非言語情報の相互同期性が高いほどコミュニケーションが良好になり、その媒体として操作性の高いアバターを使うことが有効と言及されます。
第8章の「映画とゲームを融合した新世代のエンタテイメント」では、映画がもつストーリー展開とVR特有の一人ひとり異なる個人の体験、また、ゲーム要素を取り入れた新たなコンテンツの可能性に触れられます。第9章の「バーチャル教室で子供は学ぶ」では、バーチャル教室で生徒一人一人に対して教師アバターが対応するアイデアが紹介されます。
最終章の第10章では、「優れたコンテンツの三条件」として、①「それはVRである必要性があるのか」を自問する、②ユーザーを酔わせてはならない、③安全を最優先することを挙げ、VRでこの世界をより良くできると締めくくる一方で、VRの没入感に潜むリスクにも言及しています。
VRに関するトピックが網羅され、VRの可能性を整理するうえで参考になる書です。VRに関心のお持ちの方、これから取り組もうとされている方、ぜひ、ご一読ください。
序章の「なぜフェイスブックはVRに賭けたのか?」では当時のFacebook社、現在のMeta社のマーク・ザッカーバーグ氏が研究所を訪れた際の驚きぶりが紹介されています。ヘッドマウントディスプレイを装着し仮想現実の高所にある狭い足場を歩き、「確かにこれはかなり怖いね」とその場にいるかのような臨場感を体験されたようです。さらに、自身を投影するアバターに三本目の腕を備えたときの体験ではあれこれ動かす術を学んだり、またバーチャル・ミラーに映る老人の身体に移し替えらえた自身の姿を見たり、自身がサメになって珊瑚礁を泳ぎ回ったりする体験もされたそうです。訪問の数週間後に、ヘッドマウントディスプレイのメーカーであるOculus社を買収し、何か事をなすときの決断の速さにも見習うべきところがあります。
第1章の「一流はバーチャル空間で練習する」では、NFL(全米フットボール連盟)での練習への活用事例が紹介されます。ヘッドマウントディスプレイを装着することによって360度カメラで撮影した練習風景を再現でき、選手はその場にいるかのように作戦を反復的に復習できます。
第2章の「その没入感は脳を変える」では、VR研究の先駆者でもあるメル・スレイター教授によるアバターへの電気ショックによる実験が紹介されます。実際の人間ではなく仮想と分かっていても、アバターが苦しむ様子をみると被験者は苦痛を覚える。脳は現実として扱っているのです。“VRの父”と呼ばれるジャロン・ラニアー氏の「一番素晴らしいVR体験はヘッドマウントディスプレイを外した瞬間に訪れる」との言葉の紹介もあり、VRでは異次元の体験はしやすいが、やはり現実世界の生活が中心にならなければならないと示唆されます。
第3章の「人類は初めて新たな身体を手に入れる」では、ゴム製の義手と隠された自分の手を同期して刺激すると義手を自分の手と思い込んでしまう「ラバーハンズ効果」と、その原理にもとづくバーチャル・ミラーが紹介されます。VR空間内の鏡に写るアバターが自分と思えてくる、また、アバターの外見に合わせてふるまってしまうという、ベイレンソン教授らが提唱したプロテウス効果にも触れられます。
第4章の「消費活動の中心は仮想世界へ」では気候変動による危険性を体験する試みが紹介されます。イタリアのイスキア島の噴出孔から噴き出す二酸化炭素が海中に溶け込み海洋を酸性化させた際の被害を視覚化して見ることができるコンテンツです。
第5章の「2000人のPTSD患者を救ったVRソフト」では、9.11テロ事件後PTSDに苦しんだ被害者らに対してVRを使い当時の記憶を呼び起こす暴露療法が紹介され、第6章の「医療の現場が注目する”痛みからの解放”」では、患者が受ける激痛から気をそらす手段として拡張された手足をもつアバター操作による療法も紹介されます。
第7章の「アバターは人間関係をいかに変えるか?」では、仮想空間での人の交流を実現するソーシャルVRがキラーアプリになると予測しています。言語情報と非言語情報の相互同期性が高いほどコミュニケーションが良好になり、その媒体として操作性の高いアバターを使うことが有効と言及されます。
第8章の「映画とゲームを融合した新世代のエンタテイメント」では、映画がもつストーリー展開とVR特有の一人ひとり異なる個人の体験、また、ゲーム要素を取り入れた新たなコンテンツの可能性に触れられます。第9章の「バーチャル教室で子供は学ぶ」では、バーチャル教室で生徒一人一人に対して教師アバターが対応するアイデアが紹介されます。
最終章の第10章では、「優れたコンテンツの三条件」として、①「それはVRである必要性があるのか」を自問する、②ユーザーを酔わせてはならない、③安全を最優先することを挙げ、VRでこの世界をより良くできると締めくくる一方で、VRの没入感に潜むリスクにも言及しています。
VRに関するトピックが網羅され、VRの可能性を整理するうえで参考になる書です。VRに関心のお持ちの方、これから取り組もうとされている方、ぜひ、ご一読ください。

推薦
SL
金沢工業大学SL
メディア情報学部
メディア情報学科 教授
中沢 憲二 (なかざわ けんじ) 学術博士

推薦
SL
中沢 憲二SL
(なかざわ けんじ) 学術博士
金沢工業大学
メディア情報学部
メディア情報学科 教授
金沢大学工学部電子工学科卒。同大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了後、日本電信電話公社に入社。NTTサイバースペース研究所主幹研究員、NTTコミュニケーション科学基礎研究所メディア情報研究部部長、NTTアドバンステクノロジ株式会社主幹担当部長を経て、2015年金沢工業大学教授。専門は情報ディスプレイ、画像処理、VR、映像メディア、Web、高臨場感通信。
「KIT Book Review」では、金沢工業大学ライブラリーセンターのサブジェクト・ライブラリアン(SL)が本を推薦します。SLは、ライブラリーセンターにおいて膨大な専門情報の内容や質を選択判断し、その収集や利用を立案実行する中枢機能です。本学の教授陣によって構成されており、自己の専門分野はもちろん、関連分野まで質の高い最新情報を把握しています。
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