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新しい分析機器や分析値の活用に
必要な技術や情報を網羅した一冊
新しい分析機器や分析値の活用に
必要な技術や情報を網羅した一冊
2025.12.15

『分析化学の基本操作』
上本道久/著
丸善出版 定価3,520円(税込)
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SL
鈴木 保任 (すずき やすただ)
金沢工業大学 バイオ・化学部
環境・応用化学科 教授
 化学や材料などの分野を専攻されなかった方には「分析化学」という分野はなじみがないかもしれません。一方で化学系の人は、有効数字、誤差、統計など化学とは関係のなさそうな話から始まる講義に面食らったのではないでしょうか。分析化学は「新しい物質を作り出す」ことが目的の化学の中にあって、物質を構成する成分がなんであるかを調べたり、その量や濃度を測定したりする分野です。学問分野としてはご存知でなくても、健康管理や環境保全、新材料の評価、食品の添加物や鮮度、鑑識化学、考古学など、ありとあらゆるところで私たちの生活に関係しています。現代の化学分析では、より低い濃度まで正確に測定するために、分析装置を用いる「機器分析」が一般的で、分析機器メーカーも研究者も高性能な分析装置の開発にしのぎを削っています。

 本書は最新の分析装置の解説ではなく、新しい機器を使いこなすために必要な技術や情報を網羅しています。1章では化学実験に用いられる器具や、試薬、ガスなどに加え、温度や湿度などの実験環境について解説しています。近年、高性能な新素材を用いた器具が市販されていて、それらの特徴もわかりやすくまとめられています。また極微量の分析に必要な高純度試薬、クリーン環境の解説、白衣や防護眼鏡などの保護具など、最新の情報が提供されています。

 2章では、分析に必要な種々の操作について解説しています。現在の化学分析は機器分析が一般的であると先に書きました。機器の操作も自動化が進められており、測定対象の物質(試料といいます)をセットして必要なパラメータを入力すれば、あとは結果を待つだけ……ならいいのですが、そこまでは簡単になっていません。試料を採取する際には、偏りがないように気を付けなればなりませんし、装置に導入できる形態に加工する際には、目的物質の損失や汚染を防がなければなりません。また装置の感度が不足する場合には目的物質の濃縮が必要です。これらの操作が適切ではないと、どんなに高性能な分析装置を用いても正確な分析結果は得られません。

 3章は測定の結果から得られた、分析値の取り扱いについて述べています。機器の出力する測定値は、最新の高価な機器であっても絶対に正しいわけではありません。どのような測定値にも誤差が含まれるので、1回の測定ではなく複数回のデータを得る必要があります。得られた複数のデータの平均値を求めるのはもちろん、統計的な処理を行って、その測定値がどれくらい信頼できるのか評価しなければなりません。先ほどは測定値が含む正しい値からの差を「誤差」と呼びましたが、現代では「不確かさ」という用語が用いられています。“分析化学者は有効数字にうるさい”などと言われることが多いのですが、桁数に無頓着な測定値を出すと、測定値や測定者が信頼できないと判断されてしまいます。数値の取り扱いは分析化学のみならず他の計測分野においても極めて重要です。本書はタイトルに「基本」が付くように詳細な説明ではありませんが、日々の分析業務で考慮すべき点をカバーしています。同じ著者により数値の取り扱いに関する成書もあるので、興味があれば参照してください。

 計量証明事業所等で日常的に分析をされている方には当たり前のことも多いかと思いますが、製品開発などで分析したり、あるいは分析部門に依頼を出される方には、より正確な分析値を得たり、あるいは分析結果を正しく評価するための参考書としてお勧めします(著者の上本道久先生は本学の客員教授です)。
PERSON
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金沢工業大学
バイオ・化学部
環境・応用化学科 教授

鈴木 保任 (すずき やすただ) 博士(工学)
名古屋大学工学部合成化学科卒。同大学大学院工学研究科応用化学及び合成化学専攻博士課程前期課程修了後、三菱自動車工業株式会社に入社。その後、山梨大学工学部助手、同大学機器分析センター講師、同大学生命環境学域准教授を経て、2019年金沢工業大学教授。専門は装置開発、分光分析法、簡易分析法、環境分析化学、分析化学。
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SL
鈴木 保任
(すずき やすただ) 博士(工学)
金沢工業大学
バイオ・化学部
環境・応用化学科 教授

名古屋大学工学部合成化学科卒。同大学大学院工学研究科応用化学及び合成化学専攻博士課程前期課程修了後、三菱自動車工業株式会社に入社。その後、山梨大学工学部助手、同大学機器分析センター講師、同大学生命環境学域准教授を経て、2019年金沢工業大学教授。専門は装置開発、分光分析法、簡易分析法、環境分析化学、分析化学。
「KIT Book Review」では、金沢工業大学ライブラリーセンターのサブジェクト・ライブラリアン(SL)が本を推薦します。SLは、ライブラリーセンターにおいて膨大な専門情報の内容や質を選択判断し、その収集や利用を立案実行する中枢機能です。本学の教授陣によって構成されており、自己の専門分野はもちろん、関連分野まで質の高い最新情報を把握しています。

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