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能登の復旧・復興に向けて
KITが様々な支援に取り組む
能登の復旧・復興に向けて
KITが様々な支援に取り組む
2026.1.23

金沢工業大学では、能登半島地震の発生翌日以降、地元大学として、それぞれの専門分野の知見を、被災地の復旧・復興、さらには将来起こり得る大地震の防災・減災に役立てるため、様々な取り組みを行ってきた。その一環が、工学部環境土木工学科、建築学部建築学科、建築デザイン学科、メディア情報学部心理情報デザイン学科の4学科による現地踏査だ。その現地踏査の成果を2025年4月4日に扇が丘キャンパスで「能登半島地震の現地踏査に関する報告会」として発表した。学部・学科の枠を超えて現地踏査を行うことになった背景、そしてこの取り組みが持つ意味について、報告会のまとめ役である宮里心一教授に聞いた。学生・教職員が取り組む支援活動についても紹介する。
PERSON
金沢工業大学 学長補佐 
地域防災環境科学研究所
所長

宮里 心一 (みやざと しんいち) 工学部 環境土木工学科 教授 博士(工学)
東京工業大学工学部土木工学科卒。同大学大学院理工学研究科土木工学専攻修士課程修了。同大学工学部開発システム工学科助手、同大学大学院理工学研究科国際開発工学専攻助手を経て、2001年金沢工業大学講師。助教授を経て、2018年教授。学長補佐、研究部副部長、KIT×KAJIMA 3D Printing Lab 所長、複合材料産学連携機構副機構長も務める。専門は工学教育、メンテナンス工学、コンクリート工学。
PERSON
宮里 心一
(みやざと しんいち) 博士(工学)
金沢工業大学 学長補佐 
地域防災環境科学研究所
所長

工学部 環境土木工学科 教授
東京工業大学工学部土木工学科卒。同大学大学院理工学研究科土木工学専攻修士課程修了。同大学工学部開発システム工学科助手、同大学大学院理工学研究科国際開発工学専攻助手を経て、2001年金沢工業大学講師。助教授を経て、2018年教授。学長補佐、研究部副部長、KIT×KAJIMA 3D Printing Lab 所長、複合材料産学連携機構副機構長も務める。専門は工学教育、メンテナンス工学、コンクリート工学。
地元にあるKITだからこそ
4学科での現地踏査がすぐにできた
 マグニチュード7.6、最大震度7を観測した能登半島地震は、石川県で581名、新潟県で6名、富山県で5名という犠牲者を出した。細長い能登半島の先端部が震源という特殊な条件に加え、地盤の隆起や土砂崩れ、津波、さらには大規模火災も発生し、被災後の支援や救援が困難を極めたのは記憶に新しい。宮里教授は発生直後の状況について、このように振り返る。
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「私たちの地元で起きたこの地震では、学生や教職員の中にも被災した人がいます。さらに親戚や知人が被災したという人も含めればその数はもっと増え、とても他人事とは思えませんでした。私は地震発生翌日の1月2日に研究室に来たのですが、すでに金沢市内や能登の被災現場に調査に向かった教員も何人かいました。

 地元の大学ですから現地の地理や地形を感覚的に理解しているし、県内の各所に多くの本学卒業生がいるので、どこに行って誰と会えばいいのかもわかっているというアドバンテージがあります。ちょうど鹿島学術振興財団から本学に対して活動費を支援していただいたので、それも活用して被災した人たちに寄り添いながら現地踏査を行うことができました」
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全壊した建物(建築学部建築学科 須田達教授、佐藤弘美講師『寺社仏閣・伝統家屋の被害調査』)
 地震発生後に現地に入って調査を行った大学は他にもあったが、金沢工業大学では工学部環境土木工学科、建築学部建築学科、建築デザイン学科、メディア情報学部心理情報デザイン学科という、畑の違う4学科の教員がそれぞれ現地に入り、被災状況などの情報を共有しながら専門分野に関する調査踏査を行っている。しかし、これは「他大学ではなかなか難しいこと」だと宮里教授は話す。

「本学では日頃から学部・学科の枠を超えて協働しながら研究成果を社会実装していく、いわゆる“プロジェクト型教育”を重視してきました。これによって各学部や学科間の垣根が、いい意味でとても低いのです。地震が起きたからいきなり学科横断で何かやりましょうと言っても、すぐにできるものではありません。こうした普段からの教員同士の横のつながりがあるからこそ、複数の教員から自発的に現地踏査の話が出てきたのだと思います。

 大澤学長からも『大いにやりなさい』と後押しをしていただき、地元大学の役割としてできるところからサポートしていこうということで、研究室の学生たちにも同行できる範囲で加わってもらい、現地踏査を行いました。やはり教員が率先して動くことで学生たちもついてくるし、それこそが真の教育ではないでしょうか。中間の打ち合わせでは教員それぞれの専門的知見や人脈を相互に活用して踏査を深化させ、2025年の3月頃にはいずれ報告会をやろうという話がまとまり、今回の報告会につながりました」
研究所と最先端技術の存在が
現地踏査を“後押し”
 2008年、金沢工業大学は白山市にある、やつかほリサーチキャンパス内に「地域防災環境科学研究所」(防災研)を設立。これまでも防災・環境・地域という3つのテーマで産官学による共同研究と人材育成を行ってきた。今回の報告会で報告を行った以下の19名の教員のうち、防災研所長の宮里教授を含む13名が防災研の研究員を務めているということも、現地踏査の初動の早さと無関係ではなかったそうだ。
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「今回の報告会は防災研によるものではなく、あくまでも4学科の教員が主体ですが、防災研の存在がなければ、これほど現地踏査も素早くスタートが切れなかったと思います。防災研では日常的に土木と建築の教員たちがやりとりをしているので、教員同士はまったく垣根のようなものは感じていないし、逆に防災研に関わっていない教員たちが加わることへの抵抗などもありませんでした」
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地震と津波で崩壊した小木港(能登町)の岸壁(工学部環境土木工学科 花岡大伸准教授『港湾施設の被害調査』)
「今回の報告会とは直接関係ないのですが、内閣府が主導して行うSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)という国家プロジェクトがありまして、そこで掲げられている『スマートインフラマネジメントシステムの構築』という課題に、私が研究開発責任者となって北陸を中心とする9つの大学・高専でプロジェクト研究体制を構築して取り組んでいます。

 このプロジェクトでは北陸地方の過酷な自然環境下で、道路インフラの維持管理に関する技術・仕組みの高度化と効率化に関する実証研究を先行事例として進め、全国で社会実装していくことを目指しています。というのも、2025年1月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故を見てもわかるように、地方自治体のインフラの維持管理が社会課題として顕在化しつつあり、数十年後にはまず市町村が管理する全国の道路から老朽化が進んで大変なことになるといわれているからです。

 このミッションに対応するためには、土木だけでなくメディア情報や心理、そして法学の先生にも入ってもらい、さらにAIやビッグデータなどのデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を調査に活用することが大切なのですが、実はこうした新しい技術は能登半島地震の現地踏査でも役立っているのです」
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iPadを利用した地形変動の簡易計測結果。国土地理院が公表した起伏量と同等の計測結果を得ることができた(工学部環境土木工学科 徳永光晴教授・中野一也教授『空間情報を用いた震災調査』)
 そんな最先端のデジタル技術のひとつが、あらゆる建物空間を高精度かつ高品質にデジタル化し、その結果をデジタルツイン(※1)として活用できる「MatterPort(マターポート)」というソフトウェアプラットホームだ。これは360°撮影可能な3Dスキャンカメラで建物の周りを何カ所か撮影すると、そこで得られた点群データを使って自動的にその空間を3Dモデルとして再現してくれるというもの。金沢工業大学ではいち早くMatterPortを導入して、教育や研究の現場で活用しているのだが、これが能登半島地震で被災した建物の再現で役立つのだという。

「MatterPortの機材はわれわれ土木や建築よりも先に情報やメディア情報が使っていたのですが、今では学科横断的に私たちもSIPなどで活用しています。今回の現地踏査では、輪島市にある重要伝統的建造物群保存地区(※2)の黒島地区という船主集落の建物を撮影しました。本当にきれいに3Dデータで内部空間まで再現できるので、被災後に解体された建物を復元する際の貴重なアーカイブとして役立つと期待しています」

現実世界から収集したデータ情報をもとに、仮想空間に現実世界とそっくりな世界をサイバー空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組みのこと。

市町村が条例で定めた伝統的建造物群保存地区のうち、文化財としての価値が特に高いと国(文部科学大臣)が認めた伝統的な建造物群や歴史的な街並みのこと。2025年現在、全国に129地区あり、石川県には輪島市黒島地区を含めて8地区ある。

“自治体職員の心理”と“仮設住宅”という
2つの興味深い着目点
 こうした最先端の機器を積極的に活用する一方で、今回の現地踏査でユニークだと感じたのが、被災者対応にあたる“自治体職員の心理” を調査している点だ。自身も被災しながら地域をなんとかしなければという使命感で頑張る自治体側の人たちの苦労は、これまでどちらかと言うと後回しにされてしまい、あまりクローズアップされることはなかった。しかし、今回はその点もしっかりフォローしようということで、メディア情報学部心理情報デザイン学科の教員が、金沢工業大学の卒業生でもある自治体職員を対象に、会話データや行動データをもとに心理状態の調査を行った。

「被災後の能登には全国の自治体から応援が入っていますが、地元住民は地元自治体の職員に対してのほうが文句などを言いやすいらしいのです。しかし、彼らも被災者ですからその重圧はかなりのものだと推察できます。その心理状態を調査によってデータ化できれば、今後起こり得る災害支援の現場で“支援疲れ” を防ぐという意味でも役立つはずです」
仮設住宅の居住者のほか(写真1枚目)、設計者に対しても(2枚目)ヒアリング調査を実施した(建築学部建築学科 円井基史教授、建築デザイン学科 竹内申一教授『仮設住宅の調査』)
 もうひとつ、建築学科の現地踏査として興味深かったのが、仮設住宅に関する調査だ。被災で住む場所を失った人が暮らす仮設住宅には、被災後の生活再建をスムーズに進めるための快適な住環境が求められる。限られた予算と時間のなかで、それをどのように実現していけばいいのかを調査することは想像以上に重要なことだ。

「阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、そして能登半島地震と、震災のたびに仮設住宅の構造や細かな機能などは改良されていると言われますが、居住者へのアンケートや設計者へのヒアリング、そして温熱環境に関する実測などでそれを数値化することで、もし次に災害が起きたときに向けて課題があるとすればそれは何なのかを、調査によってある程度整理できたと思います」
KITの学生や教職員も
様々な形で復興支援へ
 この仮設住宅の現地踏査とともに動いていたのが、「GAPPA(がっぱ) noto=北陸建築学生仮設住宅環境支援プロジェクト」という取り組みだ。北陸にある7大学19研究室から約100名の学生が参加するこのプロジェクトは、仮設住宅団地における居住者の安らぎのある住環境と豊かなコミュニティの形成を支援するというもので、「がっぱ」とは「一生懸命になる」という意味を持つ石川県の方言だ。
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「治部煮炊き出し×収納BOX製作」を開催するGAPPA notoの学生たち(建築学部建築デザイン学科 竹内申一教授)
「主体はあくまでも学生で、教員はオブザーバーという立ち位置です。単なるボランティアではなく建築学という学問の枠のなかで視点を持ちながら、学生たちが仮設住宅団地で定期的なイベントやモノづくりのワークショップを行っています。こうした経験は建築を学ぶうえで大いに勉強になるだけでなく、たくさんの気づきを学生たちにもたらしてくれていると思います。

 防災という日本の言葉が“BOSAI” という世界共通の言葉になっているように、このプロジェクトに参加した学生が活動内容を英語に翻訳して海外に向けて発信するというのもいいと思います。それがきっかけとなって、海外の若者や研究者が金沢工業大学に留学してくれるかもしれません。本学はこれまでどちらかと言うと国際化が苦手でしたが、大学院の土木の修士はいまや半分が留学生で授業も研究室での活動も英語で行っていますから、どんどん国際化も進めていきたいですね」

 能登半島地震現地踏査報告会の目的は、金沢工業大学の教員たちがそれぞれの専門分野でまとめた調査結果を、将来日本のどこかで起こるであろう大地震に備えるための知見として活かすことにある。そのためには防災のデータをどんどん集めて蓄積し、次につなげていくことが重要だと宮里教授は言う。
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「今回の報告会はあくまでも第1回目です。私も含めて多くの教員が今後も継続して現地踏査を続けていくつもりなので、次は4学科だけでなくいろいろなところを巻き込む形で全学的に取り組んでいくことも考えています。そして2回目の報告会だけでなく、高校生に向けたオープンキャンパスでも報告発表ができればいいですね」

 これ以外にも、金沢工業大学では、学生・教職員が災害ボランティアに参加するなど、様々な取り組みを行っている。
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 また、SDGs推進センターの学生たちが七尾市内で、水泳部の学生たちも輪島市内で、被害を受けた民家の片づけや、豪雨災害で浸水した建物内での泥出しなどを行った。

 教職員でも現地踏査以外に、基礎教育部教職課程の平真由子准教授が、「わたしたちのウェルビーイングカード」を利用し、被災した能登の教員・指導者向けの研修を石川県内各地で実施。情報理工学部 知能情報システム学科の松井くにお教授は、2次避難所となっていた加賀市内のホテルで、コード化点字ブロックを使って視覚障がい者の被災者支援を行った。金沢工業大学の学生・教職員が総出で復興支援にあたっている。
被災地は復旧もまだまだ
卒業生の皆様も引き続きご協力を
 この取材の直前に宮里教授は輪島市を訪れた。被災した建物の公費解体はおおむね終わったそうだが、2024年9月に発生した能登半島豪雨も重なったことで、復旧・復興に向けた取り組みはまだまだだったという。そんな宮里教授から金沢工業大学の卒業生に向けてメッセージをもらったので、その言葉を紹介して本稿を締めくくりたい。

「これまで多くの本学卒業生が復旧支援に協力してくださり、感謝申し上げます。しかし、被災地の復旧はまだまだ終わっていないし、本格的な復興に向けた取り組みはこれからようやく始まるところです。皆様にはぜひこれからもお力を貸していただければ、これほど嬉しいことはありません」
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