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半導体産業発展の風を北陸から
人材育成に向けて2機関を新設
半導体産業発展の風を北陸から
人材育成に向けて2機関を新設
2026.1.23

2025年8月4日に開催された「北陸半導体コンソーシアム(北陸iSRC)設立フォーラム」には、100人を超える関係者が出席した。これは北陸3県の半導体関連企業や大学・高専、自治体など計22団体が参加する取り組みで、産官学の連携強化によって半導体分野の人材育成と研究開発を推進し、地域経済の活性化だけでなく半導体技術発展への寄与もめざすというものだ。これに先立つ2024年6月には学内に「先端半導体教育研究センター」を新設し、北陸iSRCの拠点となる事務局の役割も担っていくという。北陸iSRC設立の経緯と、先端半導体教育研究センターが果たす役割について、同センター所長の井田次郎教授と副所長の山口敦史教授に話をうかがった。
PERSON
金沢工業大学
先端半導体
教育研究センター 所長

井田 次郎 (いだ じろう) 産学連携室 教授 博士(工学)
東京大学工学部物理工学科卒。同大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了。住友電気工業(株)に入社。2年半で沖電気工業(株)へ。以来、沖電気の超LSI研究開発センター、プロセス技術センター、事業企画部門担当部長、シリコンソリューション・カンパニー研究開発部長などを経て、2009年金沢工業大学教授。専門はシリコン半導体デバイス&SOI、極低消費電力新規デバイス構造、エネルギー・ハーベスティング(環境RF発電)、ニューロモーフィック向けデバイス。
PERSON
井田 次郎
(いだ じろう) 博士(工学)
金沢工業大学
先端半導体
教育研究センター 所長

産学連携室 教授
東京大学工学部物理工学科卒。同大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了。住友電気工業(株)に入社。2年半で沖電気工業(株)へ。以来、沖電気の超LSI研究開発センター、プロセス技術センター、事業企画部門担当部長、シリコンソリューション・カンパニー研究開発部長などを経て、2009年金沢工業大学教授。専門はシリコン半導体デバイス&SOI、極低消費電力新規デバイス構造、エネルギー・ハーベスティング(環境RF発電)、ニューロモーフィック向けデバイス。
PERSON
金沢工業大学 副学長
先端半導体
教育研究センター 副所長

山口 敦史 (やまぐち あつし) 工学部電子情報システム工学科
教授 理学博士

東京大学理学部物理学科卒。同大学大学院理学系研究科(物理学専攻)博士課程修了。ERATO榊量子波プロジェクト研究員を経て、1993年NECに入社し、同社基礎研究所主任、光・無線デバイス研究所主任研究員(青色LDチームリーダー)を歴任。2003年にNECを退社し、稲盛財団学術部部長、ERATO上田マクロ量子制御プロジェクト技術参事を経て、2006年金沢工業大学教授。副学長、教務部長、電気・光・エネルギー応用研究センター所長も務める。専門は光物性、価電子帯、窒化物半導体、半導体レーザ。
PERSON
山口 敦史
(やまぐち あつし) 理学博士
金沢工業大学 副学長
先端半導体
教育研究センター 副所長

工学部電子情報システム工学科
教授

東京大学理学部物理学科卒。同大学大学院理学系研究科(物理学専攻)博士課程修了。ERATO榊量子波プロジェクト研究員を経て、1993年NECに入社し、同社基礎研究所主任、光・無線デバイス研究所主任研究員(青色LDチームリーダー)を歴任。2003年にNECを退社し、稲盛財団学術部部長、ERATO上田マクロ量子制御プロジェクト技術参事を経て、2006年金沢工業大学教授。副学長、教務部長、電気・光・エネルギー応用研究センター所長も務める。専門は光物性、価電子帯、窒化物半導体、半導体レーザ。
関連企業が多数存在する北陸で
半導体産業で活躍できる人材育成を
 1980年代から90年代にかけて世界をリードし、圧倒的なシェアを誇っていた“日の丸半導体”だが、日米半導体協定といった政治的な背景や半導体マーケットの変化への対応の遅れ、さらには大胆な開発投資の不足といった様々な要因によって、世界の半導体産業の進歩に付いていくことができず、わが国の半導体産業はいつしかアメリカ、韓国、台湾、中国といった国々に大きく後れをとることになってしまった。
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 しかし、半導体製品のシェアを失ったとはいえ、日本の半導体産業がすべての分野で衰退してしまったというわけではない。半導体の基礎技術に加え化学の分野にも強みを持つ日本は、「半導体製造装置」や「半導体材料」においては今なお世界トップクラスの競争力を誇っている。コロナ禍において顕著になった半導体不足をきっかけに半導体の安定供給の重要性を再認識した政府は、数年前から半導体産業の復興に向けた支援を活発化させている。井田教授はこう話す。
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「九州(熊本)に工場を作った台湾の半導体メーカーTSMCや、先端半導体の国産化をめざして北海道(千歳市)に設立されたラピダスという会社の名前を聞いたことがあると思いますが、経済産業省はこれらの会社にすでに4兆円という巨額を投入しており、国も本気で半導体産業の再活性化に向けた動きを加速させています。

 こうしたタイミングをとらえて、もともと半導体関連の産業が多く集積していた北陸地域でも改めて北陸が半導体の重要拠点であるという認知度を高め、“地域の活性化”を図ろうというのが『北陸半導体コンソーシアム(北陸iSRC)』構想です。このiSRCという呼称は、半導体研究で有名なベルギーのimecと、アメリカの半導体コンソーシアムであるSRCから文字を取って名づけました」
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「意外に知られていませんが、石川・富山・福井という北陸3県には半導体メーカーや装置メーカーだけでなく、半導体の設計を専門に行う会社やスタートアップなど半導体関連企業が数多く存在しています。ところが、半導体産業で活躍してくれる人材を募集してもTSMCやラピダスにばかり注目が集まって、なかなか人が集まらないという地元企業の声を耳にしていたので、共通の目的を持った仲間が集まってコンソーシアムを作ることで、“人材育成”という点でも活性化が図れるのではないかと考えました。

 加えて九州、北海道だけでなく北陸にも半導体の拠点を設けることは、自然災害やテロといった緊急事態におけるBCP(事業継続計画)のリスクを分散させることにもなり、国の政策においても非常に重要なことだと認識しています」(井田教授)
北陸iSRCの受け皿として
「先端半導体教育研究センター」新設
 この構想に金沢工業大学も素早く対応し、2024年6月に「先端半導体教育研究センター」を新設。井田教授が同センターの所長に、そして副学長の山口教授が副所長に就任した。実は応用物理学会で、井田教授が最近までシリコンテクノロジー分科会の幹事長だったほか、山口教授が応用電子物性分科会の幹事長を務めている。また山口教授は、ワイドギャップ半導体学会の理事としても活動している。つまり、シリコンの専門家とワイドギャップ化合物半導体の専門家という2人が中心になって、広い視野で半導体の教育研究を引っ張っていくという体制が出来上がったというわけだ。山口教授は次のように話す。
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「本学では『半導体関連の会社に就職するのは電気系の学科だけではない』という中部経済産業局からの指導も踏まえて、2023年度から全学科向けの半導体に関する教養科目を開講しており、すでにいろいろな学科から300名を超える学生がこの科目を履修しています。さらに地元の半導体関連企業にご協力いただいて工場見学や特別講義などを行っているほか、『中部半導体業界セミナ』という催しには毎年8社ほどの半導体関連企業にご参加いただくなど、半導体に関する教育には積極的に取り組んできました。

 今回40号館に新設された先端半導体教育研究センターは、金沢工業大学における半導体教育の取り組みをさらに前に進めるための教育研究活動の拠点です。これまで学内のバラバラな場所にいた半導体系の教員を集結させることで、以前から本学が強みとしていた、次々世代のパワー半導体(※1)である酸化物半導体の先駆的材料探求や、半導体後工程(※2)の革新的材料・廃熱機構の研究を通して、産学融合によるインキュベーションを行っていきます」

電力の制御や変換を行う半導体の総称で、パワーデバイスとも呼ばれる。演算や記憶といった論理記号を取り扱う「ロジック半導体」が“頭脳”の役割を担うのに対し、パワー半導体は大きな電圧や電流といった電気を取り扱う“筋肉”の役割を担っている。主な用途は家電製品、自動車、再生可能エネルギー、産業機器、鉄道車両、通信インフラと幅広いが、近年はEV、自動運転、センシング技術など、自動車における需要が増大している。

半導体の製造工程は、シリコンから作られたウエハーの表面に回路の基盤となる構造を作り上げていく「前工程」と、完成したウエハーからチップを切り出しと製品として使えるように仕上げていく「後工程」の2つに分かれる。内部構造を作り上げる前工程にはナノ単位の精密な加工が求められるのに対し、製品としての完成度を高める後工程には耐久性や安定性を重視した品質管理が求められる。近年は前工程における微細加工技術が限界に近づいているため、後工程の精度の向上や技術革新の重要性が増している。

「さらにこのセンターが北陸iSRCの事務局としての役割も担っているので、本学の学生だけでなく北陸iSRCに参加する学校の学生や企業の社員も参加できるオープンラボやリカレント教育などを通して、北陸の半導体産業の活性化を先導していきたいと考えています」(山口教授)
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 同センターの1階には、学生たちが実際に半導体に触りながら製造工程全般を体験するための装置なども導入する予定というが、その理由を山口教授は次のように説明する。

「今の半導体工場は完全に自動化されていて、クリーンルームに人が入るのは装置が故障したときだけです。各工程の効率的な作業手順などはすべてAIが考えてくれるので、入社してから一度も半導体に触ったことのない若い研究者は、そこでどんなことが行われているのかということをほとんどイメージできていません。各プロセスでは温度設定やガスの流量などを、結果を見ながら決めていくわけですが、パラメーターがたくさんあるなかでどう進めればいい方向にいくのかは、こうした工程を具体的にイメージできる人でなければ考えられないと思います。

 そこで私たちは全然最先端ではない装置でかまわないので、とにかく自分の手で触って半導体を作るためのひと通りのことが経験できるような装置を、センターの1階に入れたいと考えています。たとえ最先端の微細加工はできなくても、自分で直接電極を付けてみるだけでも全然違うはずですから。実際に私の研究室の卒業生たちも、研究室で半導体を触っていた経験が現場に出てからイメージとして役立ったと話しています」(山口教授)
北陸地域で産官学の連携を強化し
国の半導体産業全体の強靭化をめざす
 そもそもコンソーシアムとは、企業、大学、自治体といった複数の組織が共通の目的を達成するために協力する共同体であり、より多くの組織や団体が集まって一緒に活動することで、技術の高度化や新たな事業展開、研究開発資金の調達が可能になるというメリットも生まれる。金沢工業大学に先端半導体教育研究センターという受け皿が整ったこともあり、井田教授たちは北陸地域にある半導体関連企業をはじめ、大学や高専といった高等教育機関、さらに中部経済産業局や各県の商工労働部といった行政にも働きかけて、北陸iSRC発足に向けて動いていった。その結果、2025年7月現在で、下図にあるような企業、大学、地方自治体が北陸iSRCのメンバーとして参加するに至っている。井田教授は次のように話す。
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「北陸地域にはパワー半導体の国内の主要な製造拠点をはじめ、半導体を最終製品に仕上げる後工程において強みを発揮する企業も多く集まっています。しかし、個々の企業や各大学・高専が持つ優れた技術や知見が、必ずしも地域全体として有機的に結びついているとは言えない状況です。半導体を巡ってグローバルな競争が激化するなか、北陸地域が一体となって産官学の連携を深化させ北陸半導体コンソーシアムを軌道に乗せることは、地域経済の発展だけでなく、その先にあるわが国の半導体サプライチェーンの強靱化に貢献するものと確信します。

 また、北陸には半導体製造においてキーになるような機械、化学、材料などの技術を持っている中小企業も多いのですが、このあたりについてはまだ調べ切れていない部分もあるので、地場産業の復興につながるようなビジネスチャンスを見つけるためにも、これからより細かくアプローチを進めていきたいと思います」(井田教授)
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8月4日の「北陸半導体コンソーシアム(北陸iSRC)設立フォーラム」で挨拶する井田教授
 北陸半導体コンソーシアムの取り組みはまだ動き始めたばかりであり、活動を本格化させていくのはこれからだが、まずは定期的な技術講演会や情報交換会などを通じて、各メンバーがお互いをよく知り合うところからスタートしたいと井田教授は話す。

「コンソーシアムに参加している企業がどのような技術を持っているのかがわかれば、その先にチップの試作や評価サンプルの提供といった委託研究や共同研究といったものも見えてくると思います。人材教育についても同じで、オンラインを併用しつつもできれば対面で、学生同士あるいは学生と企業の方が直に触れ合えるような会をやっていければと考えています。なにしろ北陸3県は地理的にも近い位置関係にありますから」
5大学・3高専と模索を重ねながら
「リカレント教育」の枠組みを構築
 人材教育は北陸iSRCのコアとなる取り組みだが、そこで期待されているのが社会人の“学び直し”と訳される「リカレント教育」の実施だ。井田教授たちは2024年から企業と議論を重ねて、どのようなメニューならば役に立つのか、そして各大学がどのような教育プログラムが得意なのかということを模索しながら、リカレント教育のカリキュラムを考えてきたという。

「実際に北陸に新たに半導体関連工場を立ち上げる予定の大手印刷会社からは、『半導体に関する新人教育をしてほしい』という要望もあるので、その要望を踏まえて各大学と話をしながら、みんなが一緒になってリカレント教育のメニューを詰めていきたいと考えています」(井田教授)
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8月4日の「北陸半導体コンソーシアム(北陸iSRC)設立フォーラム」に参加した関係者の皆さん。最前列中央が大澤学長、最前列左から2人目が井田教授、3人目が山口教授。
 北陸iSRCには金沢工業大学のほか、金沢大学、北陸先端科学技術大学院大学、富山大学、福井大学という5つの大学と、石川工業高等専門学校、富山高等専門学校、福井工業高等専門学校という3つの高等専門学校が教育機関として参加しているが、これまでは学校の枠を超えた教育の結びつきは決して多くはなく、せいぜい一部の大学と2大学間の単位相互認定協定を結んでいる程度だった。しかし、北陸iSRCの発足を契機に、北陸全体でリカレント教育を進めることで、人材教育だけでなく人材確保にもつなげていこうというベクトルが生まれたと山口教授は話す。

「純粋なリカレント教育としてやるのか、それとも大学院の修士課程のプログラムとしてやるのか、両方の構想があるのですが、文部科学省に申請するためのパッケージは科目名まで出来上がっています。これは本学が単体でやるのではなく、それぞれの大学で大学院向けのカリキュラムを組んでもらい、その中から『何単位を修得すると証明書を出しますよ』というような形で、2カ年で教育しようと考えています。

 これだけ多くの学校がそれぞれの枠を超えて何かをやろうという取り組みは今回が初めてで、5つの大学と3つの高専とで何回もオンライン会議を重ねました。半導体の基礎教育から始めて授業が進んでいくとパワー半導体について学べるようになっているので、カリキュラムとしてはけっこういいものが出来上がったと思います。

 カリキュラムも本当は体験重視にしたいのですが、まだ装置がそろっていないこともあり、企業側からの要望も多い平日の夜18時頃スタートのオンライン授業で、半導体の基礎講座のようなものから始めるのが現実的かなと考えています」
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8月4日の「北陸半導体コンソーシアム(北陸iSRC)設立フォーラム」で金沢工業大学について説明する山口教授
 現代社会において、半導体はDX(デジタル・トランスフォーメーション)やAI、IoT、自動運転といった多くの先端技術を支え、あらゆる産業の根幹をなす、極めて重要な基幹部品となっている。その戦略的重要性は一国の産業競争力のみならず、経済安全保障をも左右するに至っており、世界各国で国家的な支援のもとで繰り広げられている熾烈な開発・投資競争は、激しさを増すばかりだ。

 一方、目を国内に転じてみれば、あらゆる面で進む東京一極集中に歯止めをかけ、いかにして地方創生を進めていくかが喫緊の課題となっている。こうした点からも北陸半導体コンソーシアムには、北陸地域の産業振興と人材育成を通じて地域を活性化するという期待がかけられている。コンソーシアムの活動拠点であり、その中心となって人材育成を進めていく金沢工業大学が果たすべき役割は想像以上に大きいと言えるだろう。

 最後にこの記事をお読みいただく金沢工業大学の卒業生の皆さんに向けて、山口教授からメッセージをいただいたのでご紹介しておきたい。

「本学卒業生の中には、何らかの形で半導体と関わりのある北陸の会社で働いている方もいらっしゃると思いますが、北陸にはまだ知られていない半導体関係の会社も数多くあるはずなので、お心当たりのある方は金沢工業大学が中心になって北陸半導体コンソーシアムという取り組みをやっているということを、会社に周知していただけると嬉しいです。

 そして、半導体について知りたいことがあれば、私たちがこれから行っていく講座にぜひ足を運んでいただきたいと思います。講座はオープンに開いていく予定なので、半導体をキーワードにして北陸の中で皆さんが仲間になってくれれば、これほど心強いことはありません」
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扇が丘キャンパス40号館「先端半導体教育研究センター」

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