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放射線を“光”に変える
未知の材料を追い続ける
放射線を“光”に変える
未知の材料を追い続ける
2026.7.17

放射線を受けた物質が、紫外線などの刺激によって発光する現象であるラジオフォトルミネッセンス(RPL)。放射線の被ばく量を〝見える化〟するのに役立つもので、放射線に関わる業務の従事者が作業中の被ばく量を測る「個人被ばく線量計」などに応用されている。しかし、これまでに実用化されているRPL材料は極めて少なく、より少ない線量かつ高感度で測定できる新しい材料の発見がまたれている。RPLを研究する岡田豪教授は、これまでに20種類を超える新たなRPL材料の創出に成功した。実業界からも研究が注目されている研究の現在地について語ってもらった。
PERSON
金沢工業大学
バイオ・化学部
環境・応用化学科 教授

岡田 豪 (おかだ ごう)
国立舞鶴工業高等専門学校専攻科電気・制御システム工学専攻修了。サスカチュワン大学大学院電気・情報工学科博士課程修了、博士研究員。レイクヘッド大学物理学科博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科助教を経て、2018年金沢工業大学バイオ・化学部応用化学科講師。准教授を経て、2026年4月より教授。専門は量子計測器、材料工学、蛍光体。
世界のトップ科学者上位2%にランクイン(エルゼビア社2025年9月発表)。
PERSON
岡田 豪
(おかだ ごう)
金沢工業大学
バイオ・化学部
環境・応用化学科 教授

国立舞鶴工業高等専門学校専攻科電気・制御システム工学専攻修了。サスカチュワン大学大学院電気・情報工学科博士課程修了、博士研究員。レイクヘッド大学物理学科博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科助教を経て、2018年金沢工業大学バイオ・化学部応用化学科講師。准教授を経て、2026年4月より教授。専門は量子計測器、材料工学、蛍光体。
世界のトップ科学者上位2%にランクイン(エルゼビア社2025年9月発表)。
RPL現象が支える
ガラスバッジ測定
 岡田教授の研究のキーワードである「蛍光体」は、紫外線などの光を当てると発光する材料のことだ。蛍光灯やLED、ディスプレイなどで色や明るさをコントロールする材料として幅広く使われているほか、レントゲン撮影、レーザー、非接触温度センサなど、応用できる分野は多岐に渡る。

「研究室では蛍光体を使って放射線を計測する研究を行っています。放射線は目に見えないので測定しづらいものですが、蛍光体を間に挟むことで放射線を光に変え、その光を検出することで放射線量を測定できます。

 蛍光体にはいろいろ種類がありますが、私たちが着目して研究を進めているのがRPLという現象です。放射線が当たることで物質内部に蛍光中心が形成され、放射線の照射前とは異なる発光を示す現象です。その蛍光を調べて放射線の強さや量、分布などを測定できます」

 ラジオフォトルミネッセンスという言葉を初めて聞いたという人もいるかもしれないが、「放射線(ラジエーション)によって材料の中に作られた欠陥などに、光(フォトン)を当てることで発光(ルミネッセンス)する現象」のことで、個人被ばく線量計のセンシング・記録素子として実用化されている。医療機関や研究施設、原子力関連施設などで放射線を扱う人が、作業時に胸ポケットなどに付ける〝ガラスバッジ〟と呼ばれる蛍光ガラス線量計がそれだ。放射線業務に従事する人は関係法令によって被ばく量の測定が義務づけられているため、安定して正確に記録を残せる測定機器への需要は多い。

 RPL現象を利用した被ばく量測定の仕組みはこうだ。特殊な成分を含むガラスなどの材料に放射線が当たると、内部に微細な欠陥や発光中心が形成される。その後、このガラスに紫外線を当てることで、放射線によって生じた発光中心が反応して微弱な蛍光を放出する。その光の強さをセンサで測定することで、どれくらいの放射線を受けたのかがわかる。

 たとえば1カ月単位でガラスバッジを身に付け、その後測定機関に返送すると、専用の読み取り装置で期間中の被ばく量が測定・評価されるという仕組みがビジネス化されている。RPL用のガラス素子は高感度で、低線量の放射線も測定可能。放射線によって形成された発光中心が安定して残るため、測定情報は長期保存でき、信頼性の高い放射線測定方式として利用されている。

「RPL現象では蛍光体からの発光強度を測定することで積算された被ばく量を評価しますが、実用実績のあるRPL材料はAg(銀)添加リン酸塩ガラスなど、ごく少数しかないのが実情です。私の研究室では従来の蓄積蛍光体よりも優れた特性を有する新規材料の探索や、メカニズムの解明に取り組んでいます。ただ、RPLは比較的新しく認知された現象であり、RPLを示す材料はあまり多く認識されていないので、現象理解や新規応用開拓もなかなか進んでいません」

 こうした状況を打開すべく、岡田教授は長年にわたり積極的にRPL材料の探索を進めてきた。これまでに20種類を超える新たなRPL材料の創出に成功。さらにRPL特性と材料パラメータとの相関関係を明らかにし、材料設計指針の確立にも道筋をつけた。創出した新規材料にはSm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Ag(銀)イオンなどの価数変化を利用したものなども含まれる。すでに実用化されているものと比較して、10倍ほど感度が高く、安定した新規RPL材料も発見しているという。
偶然と継続から生まれる
新規材料の探索
 岡田教授が行ってきた「新規光機能材料の創出と量子計測応用の研究」は、令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞するなど、多方面からの高い評価につながっている。
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「蛍光体の研究はもともと自分で選んだというわけではなく、留学していたカナダの大学の研究室で与えられたテーマだったので、RPLに絞って本格的に研究を始めたのは日本に帰国してからです。

 病院で放射線技師が胸に付けているガラスバッジの中に、RPLの素子が入っていることを学生のときは知りませんでしたが、現在はそのガラスバッジを作っている千代田テクノル社と共同研究をさせてもらっています。RPLの応用先は思っていた以上に広いので、自分が大学から続けてきた研究がそのまま世の中の役に立つことを信じて、現在も研究を進めています」

 とはいえ、これまで存在しなかったまったく新しい材料を見つけることは、いかなる分野においても簡単なことではない。岡田教授はどのような方法で新規材料の探索を行っているのだろう。

「どのような材料でRPLが起きるのかは、実はまだよくわかっていません。材料の数も非常に少なく十分なデータもないので、とにかくいろいろな材料を作って試すしかありません。元素を組み合わせた無機化合物のデータベースを参考に、こういうものなら作りやすそうだという材料を選び、実際に原料を調合して材料を作製します。RPL特性を示すかどうかの確認の作業を繰り返すのが基本の研究スタイルです。

 NaCl(食塩)のように単純な化合物なら市販品を購入できますが、たとえばナトリウム、カルシウム、シリコンを含む酸化物を組み合わせたものは、原料を混ぜ合わせ、それを適切な比率で調合したうえで加熱反応させる必要があります。こうした研究を学生の頃からやっていますが、当時は材料の合成が技術的にできなかったので、共同研究者に頼んで作ってもらったりしました。しかし、せっかく作っていただいたのに期待した結果が出ず、すみません……となることが多かったです(笑)」

 作製した材料を使って実験を重ねても、そこから新しいRPL材料が見つかる確率は「打率で言うと数%あるかどうか」というから、それがいかに難しいかがわかる。
 苦労して見つけた新規材料は、まだ企業による本格的な実用化には至っていない。ただ、「こういった用途に応用できるのではないか」という可能性を示すデモンストレーションは、研究レベルでは行われているという。
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創意工夫を重ねて岡田教授が作製した、材料の分析・評価装置
「従来のガラスバッジは、放射線が当たってすぐに反応を読み取るものではなく、『1カ月でどれだけ被ばくしたか』を測定できれば十分とされていました。そのため、作業中の被ばく量をリアルタイムで把握できる使い方ができませんでした。しかし、いろいろな材料を探索するなかで、放射線の照射後すぐに反応が完了し、リアルタイムでの測定に使える材料も見つかっています。これにより、従来は難しかった新しい使い方もできる状況にはなりました。

 また、狙ったわけではないのですが、市販の材料の10倍くらい感度が高いCaSO4(無添加硫酸カルシウム)を発見できたのには驚きました。こうした進歩性の高い知見は国際特許を取得し、さらなる実用化に向けて企業と共同研究を進めています。ただ、新規材料の発見は理論だけで設計できるものではありません。結局のところ、多くの材料を実際に作って試す〝数勝負〟の側面が大きいですね」

 さらに岡田教授は新たなRPL材料を開発し、世界で初めて、マイクロビーム放射線治療におけるX線ビームの線量分布の計測に成功した。マイクロビーム放射線治療とは、ミクロレベルの空間構造をもつ極細のX線ビームを腫瘍に照射することにより、従来の治療よりもはるかに高い線量を瞬間的に与えることができるというものだ。

「まだ研究段階ではありますが、針のように細いすだれ状のX線ビームを、瞬間的に大量照射することで、治療効果を高めて治療回数も減らせるというものです。従来の放射線検出技術では、X線ビームの線量分布を正確に計測することは不可能でした。そこで、治療効果とビーム照射条件を対応づけて解析することで、マイクロビーム放射線治療に対応できる線量分布の測定技術を開発しました」

 これまでも非常に微細なビームの分布を測定することはできたが、高線量放射線を同時かつ正確に測定しようとすると、検出器が飽和するなどの問題があり、高空間分解能と高線量耐性の両方の性能を満たすような技術というものはなかった。岡田教授は高い空間分解能をもつ新たなRPL材料を見つけ、それを高線量放射線の測定に応用展開することに成功したのだ。

「ただし、マイクロビーム放射線治療ではシンクロトロンという日本に数台しかない特殊な装置が必要になります。利用可能な施設が限られており、前臨床研究が進められている段階です。一方、最近注目されているFLASH(フラッシュ)放射線治療は、もっと一般的な装置でも治療が可能であり、現在、基礎研究や一部の臨床試験が行われています。FLASHにも特殊なビームを測定する技術が必要となるので、私たちの開発した技術が先にこちらで活用される可能性は十分あると考えています」

 こうした研究成果はRPLの新たな材料を探索する重要性を示しただけでなく、量子計測技術の選択の幅を広げ、医療、福祉、産業における、より安全・安心な量子技術利用の推進の一端を担うものとして期待されている。
健康やくらしに直結する
新規材新技術の実用化を見据えて
 一方、岡田教授は論文引用数などをもとに世界のトップ科学者2%を選出する「標準化された引用指標に基づく科学者データベース」に2020年、2021年、2023年、2024年、2025年とランクインしている。このデータベースは医学・科学技術分野を中心とする世界最大規模の情報分析企業であるエルゼビア社が毎年公表しているもので、トップ2%入りはかなり名誉なことだ。自身の研究、研究室での学生の指導に加え、他大学の先生や民間企業との共同研究などで多忙を極めるなか、継続的に論文を発表するのは並大抵のことではない。

「私は論文を“お蔵入り”させるのが、すごくもったいないと考えています。たとえ大きな成果ではなくても、あるいはネガティブな結果だったとしても、税金をもらって研究をしている以上、できる限り、世の中に公開するようにしています。論文がどれだけ引用されたかというのは、あくまでも統計的に集計されたひとつの結果にすぎません。これは普段から学生にも伝えていることなのですが、どんな研究でも最後、形にするところまでやりきることを心がけています。そうした積み重ねが、このような評価に表れたのかなと思います」

 岡田教授は自分の研究を「マニアック」と表現した。確かに、放射線というひとつのテーマを、試行錯誤を繰り返しながら深く掘り下げつつ、新たな材料や現象を追究していく研究の進め方は、極めて専門的なものといえる。しかし、地道な積み重ねの先には、被ばく線量計の高性能化や新しい放射線治療技術の実用化があり、それは私たちの健康や安全な暮らしに直結する。国内外の研究者から注目を集める岡田教授の研究は、これからも放射線計測や医療分野に新たな可能性をもたらしていきそうだ。
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海外の大学からの研究生を受け入れ、無機セラミックス、ガラス、単結晶などの材料の合成から応用可能性について検討している

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