AI時代に求められる
STEAMな学びAI時代に求められる
STEAMな学び
STEAMな学びAI時代に求められる
STEAMな学び
2026.7.17
Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)という5つの単語の頭文字を組み合わせた「STEAM(スティーム)教育」。理数系分野だけを重視するのではなくアートやリベラルアーツといった幅広い知識を統合的に学ぶことで、社会の課題を自分で見つけ出し、それを解決するための〝人間力〟を高めるというのがSTEAM教育の基本的な考え方だ。
「文理の枠を超えて共創する社会実装型総合大学」を掲げる金沢工業大学では、STEAM教育の実践に力を入れている。AIなどのテクノロジーが想像以上の速さで進化を遂げるいま、新たなイノベーションを起こせる創造性人材を育成するために、STEAM教育のさらなる深化を進めている。
今回はSTEAM教育の第一人者であり、数学者、ジャズピアニストとしてもマルチに活躍する中島さち子さんを金沢工業大学にお招きし、技術と感性が交差するこれからの大学の“STEAMな学び”をテーマに、大澤敏学長と対談していただいた。
「文理の枠を超えて共創する社会実装型総合大学」を掲げる金沢工業大学では、STEAM教育の実践に力を入れている。AIなどのテクノロジーが想像以上の速さで進化を遂げるいま、新たなイノベーションを起こせる創造性人材を育成するために、STEAM教育のさらなる深化を進めている。
今回はSTEAM教育の第一人者であり、数学者、ジャズピアニストとしてもマルチに活躍する中島さち子さんを金沢工業大学にお招きし、技術と感性が交差するこれからの大学の“STEAMな学び”をテーマに、大澤敏学長と対談していただいた。

金沢工業大学 学長
大澤 敏 (おおさわ さとし) 教授・理学博士
東京理科大学理学部化学科卒。同大学大学院理学研究科博士課程(化学)修了。マサチューセッツ大学博士研究員を経て、1996年金沢工業大学講師。助教授を経て、2004年教授。学生部、教務部、研究部、進路部などの副部長、バイオ・化学部学部長、教務部長を経て、2015年副学長。この間、米国パデュー大学、スウェーデン王立工科大学、ドイツカールスルーエ大学等で工学教育の視察・研究に従事。2016年第6代学長(現在3期目)。大学院工学研究科研究科長、地方創生研究所所長、基礎教育部部長を兼務。専門は環境調和材料、生体材料、生分解性高分子。
大澤 敏 (おおさわ さとし) 教授・理学博士

大澤 敏
(おおさわ さとし) 教授・理学博士
金沢工業大学 学長
(おおさわ さとし) 教授・理学博士
金沢工業大学 学長
東京理科大学理学部化学科卒。同大学大学院理学研究科博士課程(化学)修了。マサチューセッツ大学博士研究員を経て、1996年金沢工業大学講師。助教授を経て、2004年教授。学生部、教務部、研究部、進路部などの副部長、バイオ・化学部学部長、教務部長を経て、2015年副学長。この間、米国パデュー大学、スウェーデン王立工科大学、ドイツカールスルーエ大学等で工学教育の視察・研究に従事。2016年第6代学長(現在3期目)。大学院工学研究科研究科長、地方創生研究所所長、基礎教育部部長を兼務。専門は環境調和材料、生体材料、生分解性高分子。

音楽家・数学者・
STEAM教育者
中島 さち子 (なかじま さちこ)
(株)steAm 代表取締役、(一社)steAm BAND代表理事、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー(シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場クラゲ館」)、内閣府STEM Girls Ambassador、東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。総合地球環境学研究所特別客員教授。国際数学オリンピック金メダリスト。資生堂クレ・ド・ポーボーテより、STEAM分野(科学、技術、工学、芸術、数学)の教育に貢献した女性を表彰する「Power of Radiance Awards 2025」を受賞。ForbesによりWomen in Tech30 2026選出。音楽数学教育と共にアート&テクノロジーの研究も進める。2026年7月1日金沢工業大学の客員教授に就任。
STEAM教育者
中島 さち子 (なかじま さちこ)

中島 さち子
(なかじま さちこ)
音楽家・数学者・
STEAM教育者
(なかじま さちこ)
音楽家・数学者・
STEAM教育者
(株)steAm 代表取締役、(一社)steAm BAND代表理事、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー(シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場クラゲ館」)、内閣府STEM Girls Ambassador、東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。総合地球環境学研究所特別客員教授。国際数学オリンピック金メダリスト。資生堂クレ・ド・ポーボーテより、STEAM分野(科学、技術、工学、芸術、数学)の教育に貢献した女性を表彰する「Power of Radiance Awards 2025」を受賞。ForbesによりWomen in Tech30 2026選出。音楽数学教育と共にアート&テクノロジーの研究も進める。
感性と身体性が
新たな創造力を生む
新たな創造力を生む
大澤 対談に先立って五十嵐威暢アーカイブ*01、PMC(ポピュラー・ミュージック・コレクション)*02、工学の曙文庫*03という本学の3つの施設を見ていただいたわけですが、いかがでしたか?
中島 いやぁ、どれも非常におもしろかったです。ハーバードなど海外の大学には学内にミュージアムがあったりするところも多いのですが、私の知る限り、日本の大学ではかなり少ないので、五十嵐威暢アーカイブはアートに触れる場として貴重だと思います。PMCにある音楽を身体で感じながら聴ける装置(※ボディソニック)は、感性的なものを形にするエンジニアリングやデザイン、テクノロジーなどが組み合わさっているという意味で、まさにSTEAMですね。ジャズのレコードもたくさんあるので、ここに1年ほど住みたいくらいです(笑)。工学の曙文庫に所蔵されている科学や数学、芸術関連の原著は、当時の研究者がどういう表現をしていたのか、図はどのようになっているのかを実際に見ることができるという意味で、とても興味深い資料だと感じました。
中島 いやぁ、どれも非常におもしろかったです。ハーバードなど海外の大学には学内にミュージアムがあったりするところも多いのですが、私の知る限り、日本の大学ではかなり少ないので、五十嵐威暢アーカイブはアートに触れる場として貴重だと思います。PMCにある音楽を身体で感じながら聴ける装置(※ボディソニック)は、感性的なものを形にするエンジニアリングやデザイン、テクノロジーなどが組み合わさっているという意味で、まさにSTEAMですね。ジャズのレコードもたくさんあるので、ここに1年ほど住みたいくらいです(笑)。工学の曙文庫に所蔵されている科学や数学、芸術関連の原著は、当時の研究者がどういう表現をしていたのか、図はどのようになっているのかを実際に見ることができるという意味で、とても興味深い資料だと感じました。
大澤 工学の曙文庫にある19世紀ドイツの航空技術者オットー・リリエンタールの『飛行術の基礎としての鳥の飛翔』(1889年刊行)という原著には、コウノトリがなぜ飛べるのかに着目し、鳥の羽根による飛行原理を研究した内容が記されています。当時の空気力学では「人間が空を飛ぶことは不可能」という考え方が一般的でした。リリエンタールは「鳥が飛べるのだから人間も飛べるかもしれない」と考えて研究を始めたわけです。この既成概念にとらわれない発想こそがSTEAMの「A」の部分、すなわちリベラルアーツであり、イノベーションを起こすには常識の壁を打ち破る発想がとても大事です。事実、リリエンタールの研究と実験は、その後のライト兄弟による世界初の有人飛行へとつながっていきました。
『飛行術の基礎としての鳥の飛翔』は翼の形態、飛行時に鳥の翼に働く力などを調べ、グライダー設計に応用するためのデータを論じている
中島 何かを生み出すには、自分で問いを立てて世界を見るということがとても大切だと思います。たとえば数学の場合、すでにわかっていることを理解するというのは論理的にできるのですが、まだわかっていないことを感じ取るためには論理でいくら頑張っても難しい。むしろ全然違うところから「あれ?これってじつは似ているのでは?」と気づくリープ(飛躍)というか、意識と無意識が両方重なり合うときがあったりするわけです。そのためにも大切なのが、何かに実際に触れたり体験することで得られる身体性だと私は考えています。そういう意味でも工業大学にここまでアートや感性の要素を刺激する施設があるというのは、ものすごく意味のあることだと思います。
大澤 いまの世の中はAI時代と言われていますが、AIは“感じたように表現”することはできても、人間のように実際の感覚や経験を伴っていません。記号接地問題*04として指摘されているように、現在のAIは人間が言語で伝えようとする意味や意図を理解しているのではなく、半導体回路上で膨大な計算を行い、次に続く可能性のある言葉(記号)を選んで表現しているだけなのです。だからこそ、一つひとつの言葉を現実世界での知覚や経験と結びつける、つまり“接地させる”ためにも、これからますますリベラルアーツのAの部分が必要になっていくのは間違いありません。
中島 私が東京大学で担当している文理融合ゼミナール「数学と音楽」では、学生たちが自分で問いを立てて楽器を作ったり、独自のアプリを作って新しい音階を見つけたりしています。最近では、東大をはじめさまざまな大学が授業にアートを取り入れようとしています。高校までの教育や大学受験のあり方が変わろうとしているなか、大学での高等教育こそがおもしろいということを、大学はもっと明確に打ち出していく必要があるからだと思います。
大澤 文理融合という観点から言えば、私は「文理共創」という考え方がこれからの時代にとても重要になると考えています。そもそも、文系と理系を分けて捉えること自体に限界があります。文系、理系という異なる発想や専門性をもつ人たちが協働しなければ、これからの社会で新しい価値を生み出すことはできません。
たとえば、何か新しい機械を開発するときに、仕組みや組み立て方に関する深い知識だけでは不十分です。機械の使い心地や質感、操作時の満足度であるユーザーエクスペリエンスを満たせなければ、優れた製品として社会には受け入れられません。エンジニアの世界だけで学びが完結すると考えるのではなく、デザインやマーケティングの領域にも関わっていく、文理探究的な思考が求められているのです。
大澤 いまの世の中はAI時代と言われていますが、AIは“感じたように表現”することはできても、人間のように実際の感覚や経験を伴っていません。記号接地問題*04として指摘されているように、現在のAIは人間が言語で伝えようとする意味や意図を理解しているのではなく、半導体回路上で膨大な計算を行い、次に続く可能性のある言葉(記号)を選んで表現しているだけなのです。だからこそ、一つひとつの言葉を現実世界での知覚や経験と結びつける、つまり“接地させる”ためにも、これからますますリベラルアーツのAの部分が必要になっていくのは間違いありません。
中島 私が東京大学で担当している文理融合ゼミナール「数学と音楽」では、学生たちが自分で問いを立てて楽器を作ったり、独自のアプリを作って新しい音階を見つけたりしています。最近では、東大をはじめさまざまな大学が授業にアートを取り入れようとしています。高校までの教育や大学受験のあり方が変わろうとしているなか、大学での高等教育こそがおもしろいということを、大学はもっと明確に打ち出していく必要があるからだと思います。
大澤 文理融合という観点から言えば、私は「文理共創」という考え方がこれからの時代にとても重要になると考えています。そもそも、文系と理系を分けて捉えること自体に限界があります。文系、理系という異なる発想や専門性をもつ人たちが協働しなければ、これからの社会で新しい価値を生み出すことはできません。
たとえば、何か新しい機械を開発するときに、仕組みや組み立て方に関する深い知識だけでは不十分です。機械の使い心地や質感、操作時の満足度であるユーザーエクスペリエンスを満たせなければ、優れた製品として社会には受け入れられません。エンジニアの世界だけで学びが完結すると考えるのではなく、デザインやマーケティングの領域にも関わっていく、文理探究的な思考が求められているのです。
中島 これまでの社会は、大量生産・大量消費を前提に、なるべく画一化することで値段を下げる「マジョリティの時代」だったと思います。しかしこれからは自分の「好き」や「苦手」といった個別性が重視される「マイノリティの時代」へと移っていくと思います。一人ひとりの個性、凸凹みたいなところが大事になり、サービスや空間や社会の仕組みなども、それぞれの個性にどれだけ寄り添えるかが問われる時代になっていくと思います。だからこそ、まずは自分で体験し、自分の感覚で物事を受け取ることが、これまで以上に大切になると思います。
フィジカルAIにこそ
必要なリベラルアーツ
必要なリベラルアーツ
大澤 もともと北陸には半導体関連の産業が多く集積しているわけですが、これからはパワー半導体の時代になるということで、本学では2024年に「先端半導体教育研究センター」を新設し、半導体産業で活躍できる人材育成のためのプログラムを教育カリキュラムに組み込んでいます。これからのフィジカルAI時代においては、幅広い知識を統合的に活用しながら問題を解決していくSTEAM教育の重要性がさらに増していくと思いますが、中島さんはどう思われますか?
中島 いまの生成AIもすごいのですが、あくまでも言語中心です。その点、フィジカルAIは圧倒的な情報量という意味でもめっちゃおもしろいと思います。現状ではセンサーで情報を得られる分野は限られていますが、世の中にはフィジカルAIが活躍できる領域はたくさんあり、そこでは日本が強みを発揮できると思います。
たとえば共感力で感じ取るみたいな部分は、なかなか言葉にしにくかったりするわけですが、そこを言語化したりデータ化して伝えることができれば、AIも感じ取りやすくなるわけです。海外ではAIをあくまでツールとして扱いますが、日本では「まだ知らないことが多いこの子をもっと育てよう」という感じで、まるで新たな家族仲間(ペット)のようにAIに接する感覚がありますよね。「こういうセンサーを入れたらいいのでは」「こういう形のほうがいいんじゃないか」といった感覚でフィジカルAIと付き合えば、海外とは違う日本の独特のものが新しく見えてくるのではないでしょうか。
大澤 俯瞰的な立場から言うと、フィジカルAIはものすごく重要です。これまでのAIはスマホやパソコンの中で利用されることが中心でしたが、産業用ロボットなどに搭載され、現実空間へと広がり始めています。さらに医療、介護分野への展開も進んでいきます。介護では、将来私たちはおそらくAIを搭載したロボット(フィジカルAI)に介護されることになると思われます。しかし人によってはAIを搭載したロボットに介護されたくないと考えるかもしれません。
ロボットを開発するための工学やエンジニアリングは重要です。しかし、それ以上に大切なのは、「こうした人の心の壁を作っているものは何なのか」「どうすれば介護ロボットと自然にコミュニケーションを取れるのか」を理解することです。そこでは共感力や心理学的な学びが大きな意味をもってきます。本学では、2025年の学部再編で新設した文理探究型2学部のカリキュラムに心理学の要素を入れました。
中島 私たち人間は、誰かと話をしているときも常に周囲の気配を感じ取っています。そういう意味では、人間は“感覚器のかたまり”のような存在だと思うんです。そして感覚情報をすべてフィジカルAIに取り入れようとする試みは今後進んでいくでしょう。人間には本人も気づいていないが感知している情報がたくさんあり、「これで終わり」にはならないのです。大事なのは、いろいろな体験を通して人間が自分自身で感じることだと思います。AIを搭載したロボットが人間に代わる作業をこなしてくれたとしても、結局、何かあったときに最後に痛みを感じるのは人間なんです。もちろん人間だって他者の痛みを完全に理解することはできません。だからこそ感じたことを言葉や表現として伝えていくことが、これからはすごく大事になると思います。
中島 いまの生成AIもすごいのですが、あくまでも言語中心です。その点、フィジカルAIは圧倒的な情報量という意味でもめっちゃおもしろいと思います。現状ではセンサーで情報を得られる分野は限られていますが、世の中にはフィジカルAIが活躍できる領域はたくさんあり、そこでは日本が強みを発揮できると思います。
たとえば共感力で感じ取るみたいな部分は、なかなか言葉にしにくかったりするわけですが、そこを言語化したりデータ化して伝えることができれば、AIも感じ取りやすくなるわけです。海外ではAIをあくまでツールとして扱いますが、日本では「まだ知らないことが多いこの子をもっと育てよう」という感じで、まるで新たな家族仲間(ペット)のようにAIに接する感覚がありますよね。「こういうセンサーを入れたらいいのでは」「こういう形のほうがいいんじゃないか」といった感覚でフィジカルAIと付き合えば、海外とは違う日本の独特のものが新しく見えてくるのではないでしょうか。
大澤 俯瞰的な立場から言うと、フィジカルAIはものすごく重要です。これまでのAIはスマホやパソコンの中で利用されることが中心でしたが、産業用ロボットなどに搭載され、現実空間へと広がり始めています。さらに医療、介護分野への展開も進んでいきます。介護では、将来私たちはおそらくAIを搭載したロボット(フィジカルAI)に介護されることになると思われます。しかし人によってはAIを搭載したロボットに介護されたくないと考えるかもしれません。
ロボットを開発するための工学やエンジニアリングは重要です。しかし、それ以上に大切なのは、「こうした人の心の壁を作っているものは何なのか」「どうすれば介護ロボットと自然にコミュニケーションを取れるのか」を理解することです。そこでは共感力や心理学的な学びが大きな意味をもってきます。本学では、2025年の学部再編で新設した文理探究型2学部のカリキュラムに心理学の要素を入れました。
中島 私たち人間は、誰かと話をしているときも常に周囲の気配を感じ取っています。そういう意味では、人間は“感覚器のかたまり”のような存在だと思うんです。そして感覚情報をすべてフィジカルAIに取り入れようとする試みは今後進んでいくでしょう。人間には本人も気づいていないが感知している情報がたくさんあり、「これで終わり」にはならないのです。大事なのは、いろいろな体験を通して人間が自分自身で感じることだと思います。AIを搭載したロボットが人間に代わる作業をこなしてくれたとしても、結局、何かあったときに最後に痛みを感じるのは人間なんです。もちろん人間だって他者の痛みを完全に理解することはできません。だからこそ感じたことを言葉や表現として伝えていくことが、これからはすごく大事になると思います。
大澤 さっき中島さんがおっしゃった、「こんなセンサーがほしい」「こういう形がいい」というのは、もはやエンジニアの世界の話ではなく、人間の感覚に関わるテーマだと思います。こうした感覚は、その人がどんな経験をしてきたのか、どんなことをしたいのかで違ってきます。「こういうものが世の中には必要だから、AIを搭載したロボットにこういうことをさせたい」と議論して考えていくのが人間の力です。そこで問われるのがコミュニケーション能力や個が持っている知見や感性ではないでしょうか。もちろん、それを伝える役目を果たすのはエンジニアですから、ロボットが壊れたときに修理できるように機械の原理を知らなければならないし、意志を持たないAIに代わって「こういう世界を作りたい」と考える創造性や感性を磨く必要もあります。そのためにもリベラルアーツの要素を学んでいくことが、すごく大切になっていくわけです。
中島 「知る」「つくる」は、両方とも大切だと思います。先ほど見学させていただいた3つの施設もですが、こうした知的な刺激を受けるとやっぱり自分でも何かを創造したくなります。そして実際にできたものが、過去のいろいろな人たちの知と結びついたりすれば、ものすごくワクワクすると思います。感じると共に、いろんな知を交錯させて新たなものをつくり出す。刺激をもらって肉体の制限の中で何かを創造したり発見したりして得られる人間の喜びや悲しみは、AIがどんなに膨大な量のデータを学習しても代替できない“何か”だと思います。
中島 「知る」「つくる」は、両方とも大切だと思います。先ほど見学させていただいた3つの施設もですが、こうした知的な刺激を受けるとやっぱり自分でも何かを創造したくなります。そして実際にできたものが、過去のいろいろな人たちの知と結びついたりすれば、ものすごくワクワクすると思います。感じると共に、いろんな知を交錯させて新たなものをつくり出す。刺激をもらって肉体の制限の中で何かを創造したり発見したりして得られる人間の喜びや悲しみは、AIがどんなに膨大な量のデータを学習しても代替できない“何か”だと思います。
女子学生と多様性が
理工系教育を変える
理工系教育を変える
大澤 本学では早い時期から女子学生比率20%を目指して改革に取り組んできました。現状では全学生のおよそ16%が女子学生ですが、なんとか30~40%まで増やしたいと考えています。中島さんは内閣府男女共同参画局が推進する理工チャレンジの理工系女子応援大使でもありますが、今後理工系女子は増えていくとお考えでしょうか?
中島 私自身、理工系女子がとにかく増えてくれればいいなと思っています。実際、理工系全般で女子の比率は少しずつ上がってきていますが、数学や工学系だけはとても低いです。教育現場に差別しようという意図がないのも知っているし、たまたま少ないだけ、と考えている人も多いと思います。ただ、女子だけで話すと「めちゃめちゃ入りにくいよね」という声が本音として出てきます(笑)。少数派であること自体が、常に周囲へ気を遣う状況につながります。何をしてもどうしても目立ってしまうし、ちょっと意見を言っただけで、わがままを言っているように思われたりするわけです。でも、大澤学長がおっしゃるように女子の比率が30%まで増えれば、そうした心理的な壁もかなり薄れ、もっと自由に意見を言える環境になると思います。
大澤 確かに本学でも建築やバイオ系は女子の比率が30~40%ほどに増えましたが、機械や電気は3%~5%しか女子学生がいません。
中島 ここで考えなければならないのが、「誰かにやらされる」のではなく、自分自身がその価値を実感できるかどうかだと思います。これはSTEAM教育や多様性についても言えることです。国が言い出したからやるとか、数値目標を達成するためにやるというでは、本質的な変化につながりません。親に「勉強しなさい」って言われて反発したくなるのと同じなんです。
私は、多様性とは本来楽しいものだと思っています。女性や年齢の異なる人やまったく別の領域の人が加わることで、ものの見方が変わるし、いろいろなアイデアも生まれるはずです。だからこそ、「多様性は楽しい」と感じられる状態をつくれれば、女子学生ももっと増えていくのではないでしょうか。私自身、進学時に文系か理系かで迷った経験がありますが、同じように感じている女子は少なくありません。ジェンダーに関係なく、興味のあるテーマや領域について融合的に“ごちゃ混ぜ” で学べる状態が理想的です。海外の大学には2 つの専攻を修了できるダブルメジャーとか、副専攻を履修できるマイナーといった制度があります。日本の大学にも文系・理系に関係なくこうしたグレーゾーンのような学びの場があるといいですよね。
中島 私自身、理工系女子がとにかく増えてくれればいいなと思っています。実際、理工系全般で女子の比率は少しずつ上がってきていますが、数学や工学系だけはとても低いです。教育現場に差別しようという意図がないのも知っているし、たまたま少ないだけ、と考えている人も多いと思います。ただ、女子だけで話すと「めちゃめちゃ入りにくいよね」という声が本音として出てきます(笑)。少数派であること自体が、常に周囲へ気を遣う状況につながります。何をしてもどうしても目立ってしまうし、ちょっと意見を言っただけで、わがままを言っているように思われたりするわけです。でも、大澤学長がおっしゃるように女子の比率が30%まで増えれば、そうした心理的な壁もかなり薄れ、もっと自由に意見を言える環境になると思います。
大澤 確かに本学でも建築やバイオ系は女子の比率が30~40%ほどに増えましたが、機械や電気は3%~5%しか女子学生がいません。
中島 ここで考えなければならないのが、「誰かにやらされる」のではなく、自分自身がその価値を実感できるかどうかだと思います。これはSTEAM教育や多様性についても言えることです。国が言い出したからやるとか、数値目標を達成するためにやるというでは、本質的な変化につながりません。親に「勉強しなさい」って言われて反発したくなるのと同じなんです。
私は、多様性とは本来楽しいものだと思っています。女性や年齢の異なる人やまったく別の領域の人が加わることで、ものの見方が変わるし、いろいろなアイデアも生まれるはずです。だからこそ、「多様性は楽しい」と感じられる状態をつくれれば、女子学生ももっと増えていくのではないでしょうか。私自身、進学時に文系か理系かで迷った経験がありますが、同じように感じている女子は少なくありません。ジェンダーに関係なく、興味のあるテーマや領域について融合的に“ごちゃ混ぜ” で学べる状態が理想的です。海外の大学には2 つの専攻を修了できるダブルメジャーとか、副専攻を履修できるマイナーといった制度があります。日本の大学にも文系・理系に関係なくこうしたグレーゾーンのような学びの場があるといいですよね。
大澤 “ごちゃ混ぜ” は絶対に必要ですね。そこからいろいろな発想が生まれてくるわけですから。本学ではさまざまなプロジェクトをベースにした教育を取り入れていて、現在100以上のプロジェクトがあります。学部や学科に関係なく自分が興味のあるプロジェクトに参加することで、専攻している領域を超えた多様な知識を身に付けて、ものの見方の幅を広げることにつなげるのが狙いです。
さらに大学を閉じた世界にしないで、企業を社会実装型の教育実践フィールドとしてとらえたプログラムもあります。これは学生でありながら社員として企業で給料をもらいながら専門業務に従事し、単位も取得できるコーオプ教育というものです。すでに50社を超える企業で100名以上の学生が就業体験をしています。実際に企業で働いてみると、たとえば電気部品の会社なのに女性がたくさん活躍しているという現実を目の当たりにするわけです。どんな企業もエンジニアだけで成り立っているわけではないということがわかれば、学生の学ぶ気持ちにもスイッチが入ってさらなる成長につながると期待しています。
中島 なかにはその経験がきっかけになって、大学院に進んでもっと専門的なことを学びたいと思う人もいるでしょうね。「Seeing is believing」という言葉がありますが、実際に女性エンジニアが活躍している姿を見るというのは大切なことだと思います。私や仲間も女性数学者として子どもたちに話をする機会があるのですが、どんな人がくるのかと身構えていた子どもたちからは「なんや普通のオバちゃんやん」って言われることが多い(笑)。ある意味、学びのハードルを下げることに貢献していると言えるかもしれません。
大澤 私たちにはすごいなと思う人を自分とは違うと分けて考えてしまう部分がありますが、実際に会って話してみると案外普通の人間だったりするわけです。いろいろな分野で活躍している女性のキャリアを見せてあげることはとても大切だと思うので、ぜひ中島さんに本学で講演やワークショップをお願いしたいですね。
さらに大学を閉じた世界にしないで、企業を社会実装型の教育実践フィールドとしてとらえたプログラムもあります。これは学生でありながら社員として企業で給料をもらいながら専門業務に従事し、単位も取得できるコーオプ教育というものです。すでに50社を超える企業で100名以上の学生が就業体験をしています。実際に企業で働いてみると、たとえば電気部品の会社なのに女性がたくさん活躍しているという現実を目の当たりにするわけです。どんな企業もエンジニアだけで成り立っているわけではないということがわかれば、学生の学ぶ気持ちにもスイッチが入ってさらなる成長につながると期待しています。
中島 なかにはその経験がきっかけになって、大学院に進んでもっと専門的なことを学びたいと思う人もいるでしょうね。「Seeing is believing」という言葉がありますが、実際に女性エンジニアが活躍している姿を見るというのは大切なことだと思います。私や仲間も女性数学者として子どもたちに話をする機会があるのですが、どんな人がくるのかと身構えていた子どもたちからは「なんや普通のオバちゃんやん」って言われることが多い(笑)。ある意味、学びのハードルを下げることに貢献していると言えるかもしれません。
大澤 私たちにはすごいなと思う人を自分とは違うと分けて考えてしまう部分がありますが、実際に会って話してみると案外普通の人間だったりするわけです。いろいろな分野で活躍している女性のキャリアを見せてあげることはとても大切だと思うので、ぜひ中島さんに本学で講演やワークショップをお願いしたいですね。
用語解説
*01 五十嵐威暢アーカイブ
彫刻家・デザイナーとして活躍した五十嵐威暢氏から寄贈された5000点もの作品や資料を収蔵。多様なコレクションを活用した独自のプログラムを通じて、本学の学生が独自の視点で世界を感受し、想像する力を引き出す活動を推進。金沢工業大学がSTEAM教育を進めるうえでの〝感性教育の拠点〟と位置づけて、2023年に設立。
*02 PMC(ポピュラー・ミュージック・コレクション)
アナログレコードが持つジャケットの芸術性を通して、学生の感性を刺激することを目的とした施設。ボディソニック(体感音響装置)を備え、レコード鑑賞を楽しむことができる。プロデューサーの立川直樹氏や音楽評論家の故福田一郎氏をはじめ、全国の愛好家から寄贈されたロック、ポップス、ジャズなどのレコードを中心に28万枚以上所蔵。
*03 工学の曙文庫
工学の創造的探究と人間性との関わりを正しく把握・判断するためには、科学及び工学の発展の軌跡と歴史認識が重要かつ不可欠であると確信して、科学技術倫理の教育と研究を実施するともに、発展の途上において行われた主要な科学的発見、技術的発明の原典初版を収集し、それを教育・研究するための施設。
*04 記号接地問題
AIが扱う単語や記号が、どのようにして現実世界のモノや経験と結びつけられ、意味を持つようになるのかという根本的な問いのこと。
*01 五十嵐威暢アーカイブ
彫刻家・デザイナーとして活躍した五十嵐威暢氏から寄贈された5000点もの作品や資料を収蔵。多様なコレクションを活用した独自のプログラムを通じて、本学の学生が独自の視点で世界を感受し、想像する力を引き出す活動を推進。金沢工業大学がSTEAM教育を進めるうえでの〝感性教育の拠点〟と位置づけて、2023年に設立。
*02 PMC(ポピュラー・ミュージック・コレクション)
アナログレコードが持つジャケットの芸術性を通して、学生の感性を刺激することを目的とした施設。ボディソニック(体感音響装置)を備え、レコード鑑賞を楽しむことができる。プロデューサーの立川直樹氏や音楽評論家の故福田一郎氏をはじめ、全国の愛好家から寄贈されたロック、ポップス、ジャズなどのレコードを中心に28万枚以上所蔵。
*03 工学の曙文庫
工学の創造的探究と人間性との関わりを正しく把握・判断するためには、科学及び工学の発展の軌跡と歴史認識が重要かつ不可欠であると確信して、科学技術倫理の教育と研究を実施するともに、発展の途上において行われた主要な科学的発見、技術的発明の原典初版を収集し、それを教育・研究するための施設。
*04 記号接地問題
AIが扱う単語や記号が、どのようにして現実世界のモノや経験と結びつけられ、意味を持つようになるのかという根本的な問いのこと。
前の記事
次の記事








