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持続可能な社会をめざして
SDGs達成に向けた取り組みを聞く
持続可能な社会をめざして
SDGs達成に向けた取り組みを聞く
2019.7.22

持続可能な開発目標(SDGs)は、2016年から2030年までに達成すべき国連の国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人として取り残さない」ことを誓った国際目標である。早期からSDGsに積極的に取り組んできた金沢工業大学は、2017年にSDGs推進センターを設立。日本で唯一となる、SDGsビジネスに関する学習・提言から実行計画策定までを1年間で行う授業を実施している。また、第1回「ジャパンSDGsアワード」において、金沢工業大学はSDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞。以降も様々な関連組織との連携を加速させている。そこで、SDGs推進センター長を務める平本督太郎准教授にSDGsへの取り組みについて伺った。
PERSON
金沢工業大学
経営情報学科 准教授
SDGs推進センター長

平本 督太郎 (ひらもと とくたろう) 博士(メディアデザイン学)
慶応義塾大学環境情報学部卒。同大学大学院政策メディア研究科修士課程、メディアデザイン研究科博士課程修了。野村総合研究所入社、2016年度末まで経営コンサルタントとして、貧困等のグローバルイシューを解決するビジネスであるBoPビジネスやアフリカビジネス推進支援、経営改革支援全般に従事。BoP Global Network 日本代表、BoP Global Network Japan創設者兼代表。2008年より宮城大学事業構想学部非常勤講師、2012年より明治大学経営学部特別招聘教授(3年間)。2016年金沢工業大学講師、2019年准教授。専門は経営戦略全般、新興国・途上国ビジネス、BoPビジネス、アフリカビジネス、次世代リーダー育成。
PERSON
平本 督太郎
(ひらもと とくたろう)
博士(メディアデザイン学)

金沢工業大学
経営情報学科 准教授
SDGs推進センター長

慶応義塾大学環境情報学部卒。同大学大学院政策メディア研究科修士課程、メディアデザイン研究科博士課程修了。野村総合研究所入社、2016年度末まで経営コンサルタントとして、貧困等のグローバルイシューを解決するビジネスであるBoPビジネスやアフリカビジネス推進支援、経営改革支援全般に従事。BoP Global Network 日本代表、BoP Global Network Japan創設者兼代表。2008年より宮城大学事業構想学部非常勤講師、2012年より明治大学経営学部特別招聘教授(3年間)。2016年金沢工業大学講師、2019年准教授。専門は経営戦略全般、新興国・途上国ビジネス、BoPビジネス、アフリカビジネス、次世代リーダー育成。
「教育重視」と「学生主体」で
全学的なSDGs達成をめざす
「金沢工業大学では、SDGsの実現に向けて、特に教育を重視した取り組みを行っています。学部・学科を超えて全学的にSDGsの達成に取り組んでいることが最大のポイントです。通常の大学は、学部・学科それぞれに教員が専門分野を持ち、各々の専門領域においてSDGsに取り組むというケースが大半です。本学では、SDGsに貢献する学生を育てるために全学的に取り組んでいるのですが、大学組織の中で学部・学科の枠を超えて行うのは決して簡単なことではありません。通常はあり得ないことを実現していると言っても過言ではない。だからこそ価値があると思っています」


 他大学では不可能なことが、金沢工業大学ではなぜ可能だったのか? その理由は意外にシンプルなことだと平本准教授は言う。


「本学では教育を最重要視し、教育の価値を高めることに重きを置いています。大学が研究重視になると、先生同士の“専門分野対決”のような図式になってしまいがちです。どちらの分野がより重要なのかという答えの出ない議論も生じてしまう。その点、学生がどうすればより成長できるかといった教育重視の議論であれば、非常にまとまりやすいのです。SDGsのめざすところは、つまりは現在の学生たちが大人になった時、活躍しやすく幸せになれる社会をつくることです。言わば自分たちが望む世界を自分たちの手で作り上げていこうということであり、そのために必要な知識や能力とは何か、ということを考えていくわけです。ならば、この分野とこの分野は連携すべきだとか、学生として必要な能力はこれだろうという議論ができるのです。結果、先生たちも学部・学科を超えてそれぞれの専門分野を持ち寄って連携し、全学一丸となってSDGs教育にまい進することが可能になったのです。
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国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)の17のゴール
 もう一点、学生主体であることが重要です。通常の教育は、学生より人生経験が豊かである教員が、培ってきた知識と経験を伝えて成長を促すという形式になっています。しかし、2030年の未来に何が起こり、人類はどうしていくべきかというテーマになると、教員たちも正解を出せるものではありません。未来に対しては、学生と教員は対等の立場だと言えます。むしろ、現代の若者気質だとか、彼らが何に悩み、どんなことに関心を抱いているかということに関しては、教員より学生のほうが理解している。お互いに持っている強みやリソースが違うので、教員が学生に教えるばかりではなく、学生が感じていること、やりたいことを提示し、どういう社会をつくり上げるかということを一緒に考えていけるのです」


 結果、教員のサポートを得ながら学生が主体となり、自分たちが生きる未来社会について、真剣かつ積極的に取り組むための教育環境が整った。


「1年目は学内の非常に身近な問題を解決し、2年目には地域と連携して周辺の自治体から本当に困っている課題を提示してもらい、それを解決する企画を考える。さらに、その有効性を実証実験によって確認します。3年目には身近な問題解決に取り組んだ経験を活かして、その延長上にある地球規模の課題に対してどうアプローチすればいいかを模索します。3年生の間にどの地球的課題にどうやってアプローチするかをしっかり考え、4年生になったらいよいよ実践ということで、専門能力を使った卒業研究に移っていく…という一連の流れを構築しています。どの段階においても、具体的なアクションを起こし、アクションを通じての成長に結びついているという点が特徴です。大学の教育自体が、SDGsに貢献するグローバルリーダーを育成し、実際に世の中を変えていく社会実装型の教育に強くリンクしている点が特徴だと思いますね」
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課題解決やSDGsの理解促進など
企業と連携した取り組みが活発
 では、そんな金沢工業大学の強みが活かされた形で、実際に学生たちが実践しているSDGs達成に向けた具体的な取り組みとは、どのようなものなのか。


「経営情報学科では3年生の前半で、SDGsの17のゴールのうち、どれに最も関心があるかを決め、後半には企業の有する最先端の技術を使ってどう解決するのかを考える授業を行います。最先端の技術である遠隔操作可能なロボットを企業から提供してもらい、それを活用すれば何ができるかを学生が考えます。


 具体的には、地元の白山市が抱えている課題の解決です。たとえば、山間部の人口過疎化により、自然と人間との共生バランスが崩れて獣害が発生していること、平野部でも地域で子育てをしていたかつてのシステムが崩壊し、夫婦共働きによって子供たちが家庭で孤立するケースが増えたことなどです。そこで、遠隔ロボットをこれらの問題解決に活用する方法を学生たちが考えて試してみるといった授業を行っています。実際には、遠隔ロボットを使って地方では滅多に会えないような企業の経営者の方が子供たちと対話し、子供たちの意欲を養うというアイディアが出ました。地域単位でこのような教育プログラムを行えば、子供の自立心も高まっていくし、夢や目標を持てれば周囲がサポートすることも可能になるでしょう」
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全日本空輸株式会社(ANA)の遠隔ロボット「ANA Avatar」を使ったコミュニケーション。
授業だけでなく、Avatarを用いたフィールドワーク、社会実装型研究なども進めている。
 さらに、SDGs推進センターでは、学生プロジェクトとしてクラウド型のカードゲーム「THE SDGs Action cardgame『X(クロス)』」を株式会社リバースプロジェクトと共同開発した。これはSDGsを促進する目的でつくられ、SDGs推進センターのウェブサイトから無償でダウンロードが可能だ。基本となる内容は学生が主体となって考案し、デザインは伊勢谷友介氏が代表を務めるリバースプロジェクトが担当した。俳優としても活躍する伊勢谷氏は、「人類が生き残るためにどうするべきか?」をテーマに同社を設立。クリエイティブな視点からの社会課題解決を目標に掲げ、SDGsにも積極的に取り組んでいる。


「SDGsに関心を持っている人は多いですが、ややわかりにくい面もあります。そこで、より多くの人たちに向け、身近な問題を世界の課題につなげて考えてもらおうという目的で、カードゲームを作成しました。ある課題に対し、自分が持っているリソースを組み合わせてイノベーションを起こすトレーニングができる内容になっています。色々なやり方があるので、15分程度で終わらせることも可能ですが、じっくりやろうと思えば2~3時間かかります。


 SDGsの理解促進にとどまらず、自分たちが抱えている課題やリソースをカードに書き加えて、独自のカードゲームを創出することも可能です。多様なプレイヤーが一緒にゲームを行い、作成することで、パートナーシップの可能性を模索したり、クラウド型データベースを活用したりすることにより、世代や地域、産業などに合わせて最適なカードゲームを最初から利用することなども可能です」


 カードゲームは好評だったが、ユーザーがダウンロード後にプリントし、カードを切って作成するという手間が生じるため、「製品化してほしい」という要望が高まった。そこで、製品化をめざしてクラウドファンディングを立ち上げ、目標額を100万円と設定して募集を開始。なんと1週間で目標を達成することができた。
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「そこで、要望の多かった英語版の制作費や小学生版の無料ダウンロード版制作費、さらにゲームアプリ版の研究開発費を集めるために、300万円のネクストゴールを設定し、最終的には332万6000円が集まりました。


 各方面から評価をいただき、グローバル企業からの引き合いもあります。アジアやヨーロッパなどの現地法人の社員が集まって合同研修をするケースなどで、このカードゲームが役立つということでした。ほかにも、企業が顧客とプレーしたいとか、社員と店頭に立つアルバイトが一緒にプレーすることで交流するといった、様々なニーズが生まれています。


 通常は社会課題の解決を考えるという状況だと、深刻な表情で思い悩むものですが、このカードゲームは、プレー中に笑い声が絶えないのです。自分たちができることを楽しく考えていけるし、ゲームなので上司も部下も関係なく、遠慮せずに意見を言い合うことが可能です。アイディアがどんどん湧き出ることになるのです。


 ほかにも相乗効果があり、自分たちでカードを作った場合に、『このカードは使いにくい』ということがあります。表現が悪かったということですね。そんなケースから、パートナーシップを構築する場合に、これまでは自分たちの表現が悪くて相手に真意が伝わっていなかったことに、カードゲームを通じて気がついたという声もあります。一方で、自分たちの強みを相手に伝えることさえできれば、スムーズに連携が可能になることも考えられるようになるので、企業からは役に立つという評価をいただいています」
カードゲームや大型イベントを契機に
若者へのSDGs認知拡大をめざす
 このカードゲームでは、柔軟な発想ができる若い世代のほうがより強いという傾向があるという。大学のオープンキャンパスで高校生たちがプレーした時に、小学生の妹が参加したところ、誰よりも柔軟な発想を発揮して高校生たちに勝ってしまうこともあったとか。


「だいたいは、経営者や幹部社員より若い社員のほうが面白いアイディアをどんどん出せます。そこで幹部たちも、自分たちの考えが旧態依然で偏っていたことに気づかされる。今後は国連などとも連携し、このカードゲームを世界展開して広く普及させたいと考えています。
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THE SDGs Action cardgame 「X(クロス)」のワークショップ
 残念ながら、日本でSDGsの認知度は14%くらいなので諸外国と比較して非常に低いのです。世界平均では50%くらいだと言われていますから。しかし、企業経営者の間では広まっていますし、2020年以降に変わる学習指導要領においても、『持続可能な社会に担い手をつくるための教育』が盛り込まれています。つまり、SDGsを達成するための教育をしなくてはいけなくなる。これからの子供たちはしっかりとSDGsを認識して成長していくのです。SDGsを知っていて当たり前という時代がすぐにくるでしょう。


 東京五輪や大阪万博の開催も控えていますが、ともに公式にSDGsのイベントだと決まっています。そのタイミングで、例えば万博ではSDGs達成のための技術がどう披露されるかという観点で注目を集めるはずです。どちらのイベントも、SDGsへの認知がより広まる絶好の契機となるでしょう」


 世代や地域、文化の違いといった垣根を超えて、接続可能な未来社会つくる。そのために「共創」することの真の意味を学べる。SDGsへの取り組みは有意義であり、未来に向かって生きる今の若者たちが、真剣に立ち向かうべきことなのは間違いない。
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SDGs達成に取り組む金沢工業大学の学生プロジェクト「SDGs Global Youth Innovators」のメンバー。
SDGsの考え方を世界中に広めることと、世界を救う人材の輩出・育成の手助けをすることを目的として活動している。
「X」の企画・制作・運営担当のほか、各地で開かれるワークショップのファシリテーターも、プロジェクトメンバーの学生が務めている。