バイオ・化学部 生命・応用バイオ学科
辰巳仁史 研究室
未来のナノテク技術を創出する
人間の体は細胞からできている。これら細胞はさらに数千種類のタンパク質分子が助け合って生命現象を生み出している。分子と分子が助け合う原理の一部でも理解できれば工学的な応用は計り知れない。分子はナノメータの大きさなのでこのような技術はナノテクと呼ばれる。研究室では現代の先端的光学技術を使って一分子のタンパク質分子を操作し生命のからくりを調べる。そこから未来のナノテクを生み出そうと格闘している。
キーワード
- 一分子を見る
- 分子を光で操作する
- ナノテクノロジー
- スーパーイメージング
- 培養脳細胞
研究紹介
分子、細胞、脳の研究を進めています
研究内容
細胞は、重力や外力のみならず体内の骨格筋や平滑筋の動きに起因する機械的刺激を受容してさまざまな応答を示す。こうした力学刺激は細胞膜や細胞骨格の変形と張力の変化をもたらす。特にアクチンストレス線維はこのような外力だけでなく、それ自身の収縮と弛緩によってアクチン線維の張力を変化させる。こうした張力の変化は、細胞の増殖、分化、運動などの基本的機能を調節し、生命の維持に重要であることが知られている。
しかし、膜や細胞骨格の張力変化がどのようにして細胞応答を調節しているのかは、よく分かっていない。その最大の理由は、機械刺激の感知機構、言い換えるとメカノセンサーの分子実体とメカノセンサーが細胞の構造や機能に影響をあたえる仕組みの多くが不明な点にある。
メカノセンサーは細胞に力が加わったときにそれを伝達するのに適した構造とリンクして働いていると考えられる。細胞の外から働く力は、細胞膜、あるいは細胞を細胞外基質につないでいる接着構造に働き、それらにリンクしている細胞骨格(例えばアクチン線維)に伝わる。力は、アクチン線維に結合している細胞核にも作用することが知られている。
1984年に最初に見つかったメカノセンサーは細胞膜にある機械受容(MS)チャネルであり、しばらくはMSチャネルのみが明瞭なメカノセンサーであった。2000年代に入って、細胞接着構造の中にメカノセンサーとして働く分子が報告されるようになった。タリンやインテグリンなどである。さらに2011年にアクチン線維に力学受容機構(力を感じる仕組み)が内在していることを早川らが示した。
研究室の一つのテーマは、アクチン線維はどのような仕組みで力を感知するのか、また、メカノセンサーとしてのアクチン線維が細胞の移動や傷の修復にとってどのような意義があるのかを調べる。また脳の中で栄養液を循環させるメカノ装置の解明と認知症との関係についても研究を始めている。
教員紹介
辰巳仁史 教授・工学博士
略歴
専門分野
専門:アクチン、光ピンセット、超解像、一分子イメージング
学生へのメッセージ
生命は分子が集まり協力し合うことで成り立っています。しかし分子が機能している仕組みの多くはわからないままの状態です。我々の研究室では細胞の中で働く分子を直接観察することで生命現象の秘密を解き明かそうとしています。答えは分子に直接きいてみることで得られるかもしれません。研究の対象は筋肉を作っている分子であるアクチン分子で、アクチン分子の集合であるアクチン線維一本を引っ張ってみてその応答を分子レベルで調べる研究を行っています。これは、血管や筋肉の細胞が力に応答して細胞の形を変化させるときに働く原理を明らかにするものです。また、金魚の皮膚の細胞が皮膚にできた傷を修復する研究、アルツハイマー型認知症の原因物質が脳神経細胞に与えるダメージを減らす方法の研究などを行っています。これらの研究も細胞や分子を調べることで前進しています。研究に参加したい人はメールで相談して参加もできます。
担当科目
アカデミックライティング 細胞の構造と機能 バイオ・化学基礎実験・演習A(応用バイオ) 運動機能論 プロジェクトデザインⅢ(辰巳仁史研究室) 細胞工学 専門ゼミ(応用バイオ学科) バイオ工学研究(辰巳仁史) 基礎生物機能学特論
研究業績
論文
- Mechanical Stress Decreases the Amplitude of Twisting and Bending Fluctuations of Actin Filaments.
- Amyloid-β slows cilia movement along the ventricle, impairs fluid flow, and exacerbates its neurotoxicity in explant culture.
- Surface-dependent quenching of Qdot emission can be a new tool for high resolution measurements.
- Entanglement of Arabidopsis Seedlings to a Mesh Substrate under Microgravity Conditions in KIBO on the ISS
- The gravistimulation-induced very slow Ca2+ increase in Arabidopsis seedlings requires MCA1, a Ca2+-permeable mechanosensitive channel
- シロイヌナズナの重力受容の分子機構を探し求めて
- Remote Sensing of Ciliary Beating Using a SQUID Gradiometer
- Kiyoshima, D., H. Tatsumi, H. Hirata, and M. Sokabe. 2018. Tensile Loads on Tethered Actin Filaments Induce Accumulation of Cell Adhesion-Associated Proteins in Vitro. Langmuir. DOI: 10.1021/acs.langmuir.8b02076
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