・空気抵抗係数は0.25(鈴鹿仕様)から0.2(WSC仕様)に低減
・「前面投影面積[u]」(物体を真正面から見たときの面積)は1.247(鈴鹿仕様)から1.23(WSC仕様)に低減
・「空気抵抗」(空気抵抗係数と前面投影面積を掛けた数値)は鈴鹿仕様より低減
夢考房チームの最大の特長は「つくれるものはすべて自分たちでつくる」ことをポリシーに活動していることにあります。
1991年のプロジェクト発足当初より、製品を購入して組み合わせるのではなく、自作製品の開発にこだわってきました。
部品の多くは学生が自ら設計製作しています。技術力向上を目的に、積極的に企業に協力を依頼し、指導いただくことでブレークスルーを図ってきました。学内の施設では製作できないブレーキ部品、ホイールやサスペンションのショックアブソーバ(タイヤから伝わる力を緩衝する部品)などについても、学生自身で設計し企業に製作を依頼するという原則で活動しています。
「KIT Golden Eagle 5」は2011年に完成し、昨年鈴鹿で行なわれた国際自動車連盟
(FIA)公認の世界最高峰のソーラーカーレース「ソーラーカーレース鈴鹿2012」ではソーラーカーの実用化を目指す4輪車両の国際規格「オリンピアクラス」で準優勝しています。
夢考房チームは国際規格であるオリンピアクラスの開発当初から、世界大会への出場を夢見てきました。「World Solar Challenge 2013」の車両規則に合わせるために「KIT Golden Eagle 5」を全面的に作り直し、技術力・チーム力を向上させ、世界へ挑戦する準備を整えました。
「KIT Golden Eagle 5」の特徴
モーターやボディにいたるまで自作。ヘアドライヤーを動かす程度の電力(約1000W)で、
オーストラリア大陸縦断3000kmを平均時速62km/h、6日間での完走を目指しています。
2012年の「鈴鹿仕様」と2013年の「World Solar Challenge仕様」(以下「WSC仕様」)との主な改善点は下記のとおりです。
夢考房ソーラーカープロジェクトは2005年からモーターも自作しています。
「KIT Golden Eagle 5」は前輪2輪に学生自身で設計・製作したインホイールモータを搭載しています。プロジェクトでは「競技に勝つには他チームが使っている市販品を越えるものを作らなければならない」という考えから「World Solar Challenge」出場のためにモーターをあらたに設計製作しました。このWSC仕様で作られたモーターのエネルギー変換効率(電気エネルギーから機械エネルギーへの変換効率)は市販品の高性能モーターの95%を越える、97.5%を達成しており、電気エネルギーのほとんどを動力に変換しています。(鈴鹿仕様は92%)
「World Solar Challenge 2013」はこれまで夢考房チームが出場してきた「ソーラーカーレース鈴鹿」とは車両規則が異なるためボディの形状を変更する必要がありました。
ソーラーカーのボディは、空気抵抗の低減と、太陽電池の発電効率増加の2つを満足する必要があります。平地での走行抵抗は空気抵抗と転がり抵抗に大別され、そのうち空気抵抗が6〜7割を占めるため、ボディの形状は曲面にしていく必要があります。一方、太陽電池は平面に貼り付け発電電力を均一にすることが望ましいため、ソーラーカープロジェクトでは、熱流体解析ソフトを用いてシミュレーションを行い、曲率を抑えつつ空気抵抗を小さく出来る形状を決定。協力企業がボディの型を作り、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を学生自身で貼り込み・焼き上げ、手作業でボディを完成させました。
自作ボティでの主な改善点・変更点
@空気抵抗を低減
・空気抵抗係数は0.25(鈴鹿仕様)から0.2(WSC仕様)に低減
・「前面投影面積[u]」(物体を真正面から見たときの面積)は1.247(鈴鹿仕様)から1.23(WSC仕様)に低減
・「空気抵抗」(空気抵抗係数と前面投影面積を掛けた数値)は鈴鹿仕様より低減
A転がり抵抗の低減のため車両を軽量化
車両重量は146kg(鈴鹿仕様)から132kg(WSC仕様)へと軽量化を目指しています。
これによりモーターの消費電力も鈴鹿仕様の1570Wから1150W(66km/h巡航時)にまで低減させることに成功しました。
Bその他ボディに関する主な変更点
・ドライバー頭部のスペースを広げるためキャノピ(操縦席の風よけの覆)を大型化
・ボディ後方を延長。全長4m(鈴鹿仕様)から4.5m(WSC仕様)へ
・ホイールが14インチ(鈴鹿仕様)から16インチ(WSC仕様)へ大径化したことに伴い全高を高くする
・ボディ前方(ノーズ部分)に広告用スペースを設けることが義務付けられ、太陽電池貼り付け面積が減少
太陽電池の光を電気に変換する際のエネルギー変換効率は、約20%です。日射強度やパネルの温度で電流、電圧が常に変化する特徴があるため、上手く制御しないと取り出せる電力はさらに低くなってしまいます。「MPPT」(太陽電池最大電力点追尾装置)を使用して、電圧と電流を自動調節することで、これらの積である電力が最大になるよう制御できます。
「MPPT」に必要な能力は、最大電力を瞬時に追尾し、取り出した電力を効率よくバッテリーやモーターに供給することです。今回学生が企業の技術者より指導を受け、設計・製作したWSC仕様の「MPPT」は、98.5%の効率でバッテリーやモーターにエネルギーを供給することができます(鈴鹿仕様は97%)。追尾速度も改善し、天候や環境の変化に瞬時に順応、常に最大電力を追尾することができます。
太陽電池セルのエネルギー変換効率は、約20%。連結とラミネートのモジューリングによって効率は1〜2%低下してしまいます。今回学生がWSC仕様モジュールのために、連結に使用する電極材料やラミネートに使用するフィルム材料を調査・研究し、効率悪化を0.5%にまで縮めました(鈴鹿仕様は1%の悪化)。WSC仕様の「KIT Golden Eagle 5」の太陽電池モジュールは実際の測定値で1050W(5.4u、日射強度1000W/u時)。鈴鹿仕様での970W(5.2u)よりもさらに向上させています。
「World Solar Challenge」では、道幅16mをハンドルの切り返し無しでUターンしなければならないという規則があります。これをクリアするために、後輪を電子制御で操舵させ旋回半径を小さくする工夫をしています。
オーストラリア大会の場合、5G(ジ―)の加速度に耐えることが要求されています。1Gは静止状態における車両の質量を意味します。KIT G.E.5の場合、1G状態で250kgを想定し、5Gはその5倍の1250kgの荷重になります。
コンピュータ上でロールバーの頂点に、図に示すような3つの方向から1250kgの荷重をかけて変形が2mm以内に収まるように設計しました。材質は、アルミ合金。溶接で繋ぎ合わせます。
ロールバーは、キャノピ(操縦席の風よけの覆)形状と共にオーストラリアの「インフラ・運輸省」が定める市販の軽自動車が守るべき規則に準拠する必要があります。この規則には、ドライバーの頭部に必要な空間、ロールバーの適切な形状、つなぎ方、シャーシへの設置方法などが細かく定められており、これらすべてを満足する形状に仕上げることができました。